【会計コラム】今後の外食業界のあり方

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2.外食業界の課題

外食業界の最大の敵は、デフレ経済ではないかと思います。1991年のバブル終焉後、ITバブルやIPOバブルなど、景気が良くなった時期もありましたが、ITバブル崩壊、リーマンショック等も起こり、平成時代の30年間は基本的にデフレ経済で、物価が上がらなかった時代と言えます。デフレ経済ではユニクロやニトリに代表されるように、低価格のものが消費者に受け、外食も価格競争が激しく、なかなか値上げが出来ない環境にあります。

さらに今年10月には消費増税も予定されており、これを機に価格の増額改定を検討している企業は多いと思いますが、価格上昇とともに客数の減少を警戒して、各社ともまだ方針は明確ではありません。また10月の消費増税に合わせると、便乗値上げと言われることを恐れて、時期をずらしてこの4月に変えるところもあれば、まずはライバル企業の出方を待って対応を決めたいとして、消費増税後に検討する企業もいるなど、各社対応はまちまちのようです。

また今回の増税は、同じ商品でも店内飲食の場合の税率は10%だが、持ち帰りの場合は軽減税率の8%が適用されると言った、やや複雑な対応が求められます。

つまり大きくは、持ち帰りと店内飲食で同一価格とするため本体価格に差をつける場合と、本体価格は同じとすれば持ち帰りと店内飲食では消費税分だけ差が生じる場合の、2通りの対応が出てくると思います。ちなみにフライドチキンが看板メニューの日本KFCホールディングスは、増税後は、別々の価格で販売する方針を決めた、とのことです。

なお、消費増税のショックを和らげるため、オリンピック前までの時限措置として、中小店でキャッシュレス決済した際のポイント還元策が検討されています。

まだ正式に仕組みは固まっていませんが、当初は増税分の2%を還元する話でしたが、首相の鶴の一声で還元率は5%で話が進んでいるようです。日本はキャッシュレス化が遅れていると言われており、この制度は、消費増税対策と日本のキャッシュレス化率上昇の二兎を追える政策として注目されています。

但し、キャッシュレス化の仕組は、クレジットカードにしてもQRコードにしても、専用の端末を設置するための導入コスト、毎月、運用会社に支払う決済手数料としてのランニングコストがかかることから、利用者は便利になる半面、飲食業者にとってはコスト増となるため、手放しで喜べるものではありません。

決済手数料は売上金額に対して数%となるため、元々外食企業の営業利益率は1桁台と低いですから、この手数料を負担すると、営業利益はほとんど残らない、あるいは営業赤字になりかねませんので、キャッシュレス化が進むかどうかは、決済手数料が事業者にとって過度な負担とならない程度まで下がる必要があります。

そして現在大きな課題となっているのが、人件費の増加です。東京労働局の資料によれば、2008年10月に766円だった最低時給は、10年後の2018年10月には985円と、10年間で3割近く上昇しています。この傾向は今後も続くと考えられ、このペースだと2019年度の最低時給は1,000円を突破することが見込まれます。しかもこれは最低時給ですから、実際に飲食店でアルバイトを募集しようとすると、人員不足が恒常化している中で他社よりいい条件を出す必要があり、例えば吉野家さんの千代田区の求人情報を見ると、1,200円前後が多く、最大1,500円程度となっています。

また政府の働き方改革の一環で、労働基準法の改正により、2019年度からは有給休暇の義務化されることになります。これは、年10日以上有給休暇の権利がある従業員(含パートタイム社員)について、最低でも5日以上は会社が指定した日に有給休暇を与えることを義務化するものです。この義務に違反すると、対象となる従業員1人につき30万円の罰金が科せられることとなるため、すでに対策を立て始めている企業も多いと思いますが、罰則が重いため、未着手の企業とは早めに対応を考えないといけません。

有給の取得率が高まることは、従業員にとっては有難いことですが、企業経営としてはその分、仕事を効率化して、勤務時間が短縮しても従来と同等以上の成果を出す仕組みに代えて行かないと、人件費が増加することになりかねません。特に、多くの外食チェーンは年中無休であることを強みにしており、また24時間営業の企業もありますが、店舗を開けている以上は必ず人員を配置しないといけないことを考えると、有給消化が進むことは、その分代わりの従業員、パートさんのシフトを増やすことになりますので、人件費の増加は避けられません。

そして中長期的には、日本の出生率低下に伴い、今後人口が減少して行くという、根本的な課題があります。外食のマーケットサイズは結局胃袋の数で決まりますから、人口が減ると、外食産業全体としては、将来、売上が減少して行くことは明らかです。

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