そもそも「のれん」というのは、会計理論上は「超過収益力」を意味します。それは、ブランドであったり、同業他社より優れた経営効率・技術力・成長性等を持つことによる、超過収益力への対価として、プレミアムとして支払われるものです。理屈上は、のれんの効果が続く期間、想定される収益を生み出した場合、のれんの支払を差引いて初めてペイするため、より大きな収益を挙げれば、あるいは想定よりも長期にわたってのれんが継続すれば、買収は成功したと言えますし、ブランド価値がそこまでないとか、キーマンが辞職したりで想定より収益を挙げられないと、プレミアムがそのまま払い損となってしまいます。
そして会計処理上難しいのは、「のれん」がソフトウェア、その他の無形資産同様、『見えない価値』であることです。つまり、のれんが生み出す収益をどのように測定するかの問題でもあり、当初は、のれんと関連する収益が明確であっても、時間の経過とともに事業再編や組織再編があると、当初ののれんから生み出した収益を明確に分離して測定することが難しくなります。また変わらず同じように収益を生み続けているとしても、それが当初の「のれん」の効果によるものなのか、それ以後の企業努力(生産性の向上、研究開発や広告宣伝等)によって新たに生じた「のれん」(自己創設のれんと言います)によるものかが、不明瞭になっていきます。
会計上は自己創設のれんの計上は認めらておらず、買収や事業の譲受等で他社から購入した場合のみ、資産計上が認められています。他社から購入したのれんが何の努力もなしに維持されるとは通常考えられず、徐々に減っていくことを前提にした会計処理が「償却」であり、将来キャッシュ・フローが落ち込まない限りはのれんは減耗せず維持されるが、将来キャッシュ・フローが一定程度減少した場合にのれんの毀損が生じたと考えるのが「減損」の会計処理の前提です。
日本基準での「償却」はのれんの継続についてコンサバティブな前提を置き、IFRSはアグレッシブな前提に基づいているとも言えると思います。
東証は上場企業に対して2017年3月期末から決算短信の簡素化を認ました。決算短信の自由度の向上について考えてみたいと思います。