【会計コラム】ソフトウェア制作費等に係る会計処理

※この記事は公開から1年以上経っています。
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ビズサプリの泉です。最近、会計基準においてもクラウドサービスに関連した研究資料がでており、今回はこちらについてお話したいと思います。

1.現状のソフトウェアの会計基準について

現状の日本のソフトウェアに係る会計基準は、会計ビッグバンの一環として1998年に設定された「研究開発費等に係る会計基準」(以下、「現基準」)となります。

一般に研究開発と聞くと製薬会社や学術的な研究がイメージされ、ちょうど会計士試験受験中だった私もなぜソフトウェアがこの会計基準に含まれるか不思議でした。

もともと、現基準は「研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書の概要」によると研究開発費の金額的重要性が増し、また研究開発活動の内容等の情報が重要な投資情報となったことより設定された会計基準でした。

また、同意見書の概要によると「ソフトウェアの制作過程には研究開発に当たる活動が含まれているため、本基準において、研究開発費に係る会計基準の設定と併せてソフトウェアに関する会計基準を設定することとした。」とあるように、現基準は研究開発費の会計処理を定めるために設定された意味合いが強くあくまでもソフトウェアの処理は付属でついてきたようです。

2.ソフトウェアの会計処理

確かに1998年においては、インターネットもまだまだ一般的でなく、ソフトウェアは店舗でパッケージを買ってインストールすることが多く、企業ではオフコンやメインフレームなどに対応したソフトウェアを自社開発することが多かったといえます。

ただ、その後急速に状況は変化し、私が会計士補(現在の会計士試験合格者)となった2003年にはインターネットの普及が進み、現基準における区分である「自社利用目的」と「市場販売目的」に沿ってソフトウェアを区分することは徐々に難しくなってきており、監査法人の先輩からも研究開発費に付属しているようなソフトウェアの会計基準は現状に合っていないといわれたものでしたが、当該会計基準が抜本的に見直されることはありませんでした。

昨今においては、いわゆるクラウドコンピューティングが進みSaaS(Software as a Service)などの新しい提供形態が一般化し、またソフトウェアの開発・更新についても従来と異なりいわゆるアジャイル開発のように機能単位での開発・更新を行うことも多くなっています。

このような背景のもと、今年の2月24日に日本公認会計士協会より会計制度委員会研究資料「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」の公開草案(以下、「本草案」)が公表され、ソフトウェアの会計基準の見直しがやっと進みそうです。

3.検討の対象及び課題認識

本草案ではSaaSを主に対象とし、ベンダーや監査法人へのアンケートにより現状を把握するとともに国際会計基準や米国会計基準との比較を行い、現基準の課題や論点を記載しています。

現状の課題としては、現基準は主に次のような点でソフトウェア実務に合わず、ベンダーおよびユーザ共に会計処理を行うにあたって課題があるとしています。

・ベンダー:自社利用と市場販売の分類、資産計上の開始時点、償却方法及び期間
・ユーザ:SaaSにおける初期費用、カスタマイズ費用の資産計上の可否、資産計上の場合の勘定科目及び費用化の期間、リース取引への該当の有無

実務とあっていないため、ベンダー、企業ともにそれぞれの判断で様々な会計処理が適用されているものの、その処理について詳細な開示もありません。その結果、上述の意見書に概要における「企業の研究開発に関する適切な情報提供を通じ、企業間の比較可能性を担保するとともに会計処理の国際的調和を図るため」という現基準目的の1つである企業間の比較性の担保が損なわれているといえるのではないでしょうか。

4.デジタルゲームの会計処理

また、本草案において個人的に特に興味深かったことはデジタルゲームの制作費用の会計処理が別途項目をもって検討されていることでした。

私は監査法人の後にモバイルゲームの開発会社の経理で4年間働いていたのですが、この時が一番ソフトウェアの会計基準の不備を感じた時期でもありました。

いわゆるテレビゲームといわれた時代は店舗でゲームがパッケージ販売されていたのですが、その後フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)におけるゲームが急速に伸び、今ではスマートフォンにおけるモバイルゲームがデジタルゲーム市場(アーケード、コンシューマ、PC、モバイル)において大きなシェアを占めています。

現基準ではモバイルゲームソフトの制作費用の会計上の取扱いが明確化されていなかったため、開発会社によっては従来のパッケージ販売時の会計処理を踏襲して棚卸資産として計上したり、SaaSに近いとして自社利用目的ソフトウェアとして処理していたりと様々でした。

私の勤務していたモバイルゲーム会社では、フィーチャーフォンからスマートフォンになるタイミングで、プログラムをダウンロードするスマートフォンはライセンス販売に近いとして自社利用目的から市場販売目的に変更することにしました。

さらに、ゲームはコンテンツをソフトウェアが密接に関連しているのですが、現基準ではコンテンツに関して会計処理が明確になっておらずソフトウェアの会計処理も実態に合わないと強く感じていたところなので、コンテンツに関する取扱いも本草案にて課題認識と提言されたことは強く共感しました。

5.課題及び提言

本草案では、次のような課題についてわりと踏み込んだ提言をしており、現在意見募集中となっています。
・市場販売目的と自社利用目的の区分
・上記区分に基づく会計処理の相違(減損会計の適用など)
・ソフトウェア制作費の資産計上要件
・クラウドサービス利用時の初期費用の処理
・デジタルゲームの制作費

関連するいわゆるIT業界のみならず、クラウドサービスの利用が広がっており、ユーザ企業においても、ぜひ注視していく会計基準の1つではないかと考えられます。

文:泉 光一郎(公認会計士・税理士)
ビズサプリグループ メルマガバックナンバー(vol.151 2022.4.13)より転載

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