【会計コラム】上場企業の開示について

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2.非財務情報の開示の充実

また、最近では財務情報以外の開示情報として、相対的に財務情報の価値が低下し、非財務情報の重要性が高まって来ています。ある分析によると、主要企業の時価総額から有形資産の評価額を引いた額を無形資産の価値と考えると、日本が32%に過ぎないのに対して、米国はこの比率が90%を占めているようで、その理由の1つに、非財務情報の開示が遅れているため、潜在的には日本企業にも存在する無形資産の価値を投資家に伝えきれていない可能性があります。

非財務情報とは、有価証券報告書等の制度開示で言えば、事業リスクやMD&Aと言われる経営者による財政状態や経営成績の分析、コーポレートガバナンスの状況などがあります。また制度開示を離れると、中期経営計画の他、CSR報告書やサステナビリティレポートのようなESGについての開示情報が挙げられます。

国連による持続可能な開発目標(SDGs)が採択されてから、持続可能な社会への企業としての貢献が重視されるようになり、期間投資家もESGに積極的に取組む企業へより多くの投資を行う傾向が顕著になって来ており、非財務情報の中でも、ESG関連の情報を充実させ正しく伝えることで、無形の価値として評価され、企業価値を高めることに繋がるかもしれません。

非財務情報については、財務情報と違って統一的な開示基準や監査の制度がないため、その信頼性や比較可能性が課題でしたが、サステナビリティ関連の開示では国際的な流れとして統一の動きがあります。その1つとして、IFRS財団が昨年、サステナビリティ報告基準の設定主体となる国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立し、ISSBは2022年の3月末には、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項及び気候関連開示基準の公開草案を公表しました。

このような世界の動きに呼応する形で、日本においては、2021年の6月に金融審議会でディスクロージャーワーキング・グループが設置され、サステナビリティに関する企業の取組みの開示や四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング等につき、企業情報の開示のあり方が検討されてきました。その報告案によると、今後、有価証券報告書の中で、サステナビリティ情報を一体的に提供する枠組みとして、独立した「記載欄」を創設することが提言されるようです。

また、2018年に公表されたISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)において人への投資の重要性が強調されており、これを受けて2020年にSECが人的資本に関する情報開示をルール化したことに伴い、日本においても2021年のガバナンスコードの改訂で補充原則として追加されました。そこで、人件費を単にコストと捉えるのではなく、人的投資を資産と捉えて適切に投資しているかを投資家が判断出来るよう、人的資本や多様性に関する情報について開示を充実することも、当該ワーキンググループの報告案に盛り込まれています。具体的には、「人材育成方針」や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報に指標とともに記載したり、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」、「男女間賃金格差」について、有価証券報告書の「従業員の状況」の中で開示することが提言されています。

政府は、早ければ2023年度の有価証券報告書から人的資本に関する一部の情報が記載される方針で、来月辺りには、人的資本への投資を企業がどのように開示すべきか、19項目に整理してまとめるようです。

このように、今後近いうちに、四半期開示の統一や非財務情報の充実が図られる意味で、上場企業にとっては情報開示の大きな転換期にあると言えます。環境変化のスピードが速く、将来が不透明・不確実で、また各社とも事業が多角化している現在の状況において、時間をかけて多大で画一的な情報開示をしても、投資家にとって有益な情報かどうかは分かりません。

投資家に伝えるべき情報の原理原則を定め、情報の重要性に応じてどこまで開示すべきか、開示する場合の表現の仕方は各企業が創意工夫をしていくことが、今後は期待されるのではないでしょうか。企業の競争力の原動は差別化です。

差別化することこそ戦略ですから、企業も情報開示を重要な経営戦略の1つと位置付け、法定、あるいは取引所の規則で要請される開示は最低限とし、今でも多くの企業が行っている決算説明会資料等、企業がそれぞれ自社の情報開示として適切なものを開示する時代になっているのではないかと考えます。

文:花房 幸範​(株式会社ビズサプリ パートナー 公認会計士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.153 2022.5.25)より転載

花房 幸範​

株式会社ビズサプリ パートナー 公認会計士
学歴:中央大学商学部会計学科卒業
職歴:1997年10月より、中央青山監査法人にて5年間、現場責任者として上場会社・外資系企業の会計監査の他、IPO支援・財務デューデリジェンス等に従事。2002年10月より5年間、日本アジアホールディングズ㈱(現日本アジアグループ㈱)の財務経理部長として資金調達、決算業務を主軸に、企業買収とその後の事業再生に携わる。2007年から2年間、中小のコンサルティング会社にて主に製造業、金融業、小売業等の連結決算支援、内部統制構築・整備支援、業務改善支援等に従事し、2009年10月より独立。アカウンティングワークス㈱の代表取締役として、現在に至る。決算開示支援、業務改善、M&A支援等の会計コンサルティングを幅広く行うとともに、セミナー・執筆等も実施。特にM&A、連結会計、ワークシートを活用した業務効率化の導入支援に強みを持つ
著書:有価証券報告書を使った決算書速読術、決算書分析術、ビジネスモデル分析術2等(いずれも阪急コミュニケーションズ)。


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