監査基準委員会報告書の改正について

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3.具体的にはどう変わったのか

監査基準の改訂に伴い、具体的・詳細に規定した監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(以下、監基報720)も併せて改正されました。

監基報720の主な変更点は次の通りです

1.(新規)監査の過程で得た知識との重要な相違の有無を検討する
2.(現行)明らかな事実の重要な虚偽記載に気付いた場合には追加手続を実施する
(改正後)重要な誤り(適切な理解のための必要な情報の省略や曖昧にしている場合を含む)の兆候に注意を払う
3.(現行)未修正の重要な相違がある場合、監査報告書の「その他の事項」区分に記載する
(改正案)監査報告書に見出しを付した独立した区分を常に設け、その他の記載内容に関する報告を行う

この基準ができる前から有価証券報告書の前半部分について通読し、財務諸表に含まれる情報との重要な相違などを“気付いた”場合は、会社に伝えて修正をしてもらっていました。従って実施手続きとしてはこれまでとあまり変わりがないようにも見えます。ただし、大きく違うのは監査報告書への記載です。改正後の監基報720では、“情報の省略”や“曖昧な表現”を含む重要な誤りについて、“注意”を払って、監査の過程で得た知識との相違の有無を“検討”し、保証の対象である監査報告書に”独立した区分を常に設け記載”することになりました。

「その他の記載内容」に対する手続きについては、「財務諸表に対する監査意見を形成するために要求される以上の監査証拠の入手を要求するものではない」と説明されているものの、実際に“情報の省略”や“曖昧な表現”を含む重要な誤りの有無に関して検討し重要性を鑑みて判断する以上、監査現場では手続きは増加し、監査工数も増加することが想定されます。

また、重要な誤りと判断したものについて会社が修正しないとした場合、監査契約の解除や継続に適否の検討に加えて、経営者等の誠実性に疑義があるとして意見不表明もあり得るとしています。

従来であれば、監査対象外であるため「最後は会社にお任せします」としていた「その他の記載内容」ですが、今後は監査法人からの修正の指導がかなり強くなるかもしれません。

4.実際に導入してみたら

国際監査基準に従って諸外国が「その他の記載内容」について実際にどのように運用されているかどうかはわかりませんが、わが国において形骸化が著しいといわれているJSOXや横並びでの記載が多いといわれるKAMなどと同様に、制度として導入したものの有用な情報提供の目的を達せられないことにならなければいいなと個人的には思っています。

自分は会社側での立場で財務諸表や有価証券報告書をはじめとする開示資料の作成業務をすることが多いのですが、あまり監査法人から保守的な指摘が多くなると、監基報720での対象となる有価証券報告書などでの開示は一般的で横並びの表現としておいて、監基報720の対象外である短信や決算資料などでの開示が増えるのではないかと懸念しています。

おりしも、4月15日には「非財務情報の充実と情報の結合性に関する実務を踏まえた考察」が公表され、開示情報の有用性を高める要素として、財務情報と非財務情報等情報の結合性高めることの重要性が述べられています。ただし、現在の監査をとりまく環境の厳しさを考えると会社が創意工夫した開示内容について、監査法人が前例や他社事例などを基にかなり保守的にコメントして修正をせまった場合、従来と比較し会社は有価証券報告書への記載に消極的になり結果として有価証券報告書の有用性が後退することもあり得ると考えています。

いずれにしても、国際化の潮流もあり避けられないものである以上、他社事例やひな型に頼るばかりではなく、企業の実態を示すできるだけ有用でかつ効率的な開示を監査法人も会社も両者ともに協力して進めていく必要があります。

文:泉 光一郎(公認会計士・税理士)
ビズサプリグループ メルマガバックナンバー(vol.133 2021.5.7)より転載

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