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飲食店敏腕コンサルタントが語る「私が体験したM&Aの味」

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パートナーへの相談で、事業譲渡という方法を知る

何としてもお金をかき集めて、店の運営を続けることはできたかもしれない。しかし、回復の見込みが立ちにくいのも事実だ。山川氏はそこで、今後どうすべきかと、資本力のあるパートナーに相談した。飲食店専門の不動産を通じたファイナンス、業務委託、サブリースなどを行いながら、会社としても飲食店を数店舗経営していたパートナー。山川氏とは、日頃からその企業の専務と経営数字を確認しあっていた仲だ。

「このままだと、ホントに厳しいね。一度、事業譲渡して第三者に再生を図ってもらい、その間に自分のビジネスを見直してみたらどうだろう。ウチでよければ引き受けるよ」

パートナー企業の専務は、そうアドバイスしてくれたという。事業譲渡で事業をいったん手放して構築し直すという発想は当時の山川氏にはなかったので、新鮮な驚きだった。山川氏は専務のアドバイスに背中を押され決断した。

そのパートナーは、事業譲渡を受けて、まず、そのまま飲食店を続ける考えだった。そのため、社員もそのまま引き受けてくれると約束してくれた。社員の処遇については山川氏も最優先で考えていただけに安堵した。「今後、事業を引き継いでもらう」と店長やスタッフに説明し、経営方針や労働条件、教育などの細かな点を伝えた。

金銭的には、そのビルを借り受けたときに1億5000万円ほどの設備投資を行い、その返済も3分の1ほどを残す状態だった。仕入などの支払い債務もあるが、それをすべてパートナーが引き受けてくれることになった。そのため譲渡金額は下がり、「ほぼ“ゼロ譲渡”でした」と山川氏は語る。それでも、立地などはいい条件だけに、パートナー企業としては「いい立地の飲食店を安く買った」という気持ちはあっただろう。

大切なのは自店で築いてきた飲食文化の継承

「M&Aでは文化の承継が大事」と語る山川博史氏

山川氏はいま、事業譲渡の難しさをあらためてこう語る。

「飲食店のM&Aでは、自分の店が醸成してきた文化と引継ぎ先の文化が合うかどうか、その大事さをあらためて感じました。この実体験があったからこそ、いま、飲食店のM&A計画のコンサルティングもできているのだと思います。財務や労務などのデューデリジェンスは会計士や税理士にやっていただかないといけない。しかし、店の文化やスタッフの現場教育の擦り合わせ、スタッフのメンタル面もフォローなどは社長やオーナー同士がしっかりとやらなければいけない。そのPMI(Post Merger Integration=M&A成立後の統合プロセス)の部分が何よりも重要です。スタッフが“がんばれるモード”を維持し、高められる状態にもっていけるか、ですね」

そのため、山川氏は「譲渡後のキックオフミーティング」が重要だとする。率直に言って、譲渡側の社員には「売られた感」があり、譲渡を受けた側は「買ってやった感」がある。それが「一緒にがんばっていこう」という考えになるには数か月、1年以上の繊細なマネジメントしていかなければならない。そのきっかけをつくるキックオフミーティングである。

と同時に、山川氏が身をもって体験したのはスピード感だ。それは単純に速攻で事業譲渡、M&Aを実施するということだけではない。むしろ「いつでも身構えておく」ということのようだ。

「飲食店の特にスタッフには、たくさんのお客さんに囲まれ、忙しく働いていれば、“ずっと一緒に働ける”という感情も生まれます。しかし、店が順調であっても、そうはいかないケースもあります。そうなったときに大切なのは、その飲食店に、いろいろな出来事に耐えられる力を育てていく文化をつくっておくこと。どこに行っても活躍できる人を、スピードを上げて店内・社内で育てていくことが重要なのです」

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