この会社を買いたいという強い思いと決断力で入札額を提示する企業も

M&Aでは企業価値評価が鍵になるが、日本企業の大多数を占める中小企業の評価はどのようにするのか。前回に続き、髙野総合会計事務所のシニアパートナーで公認会計士・税理士の小宮孝之氏に聞いた。

――M&Aのディールにオークション(入札)方式で参加する場合のプロセスを教えて下さい

M&Aのディールは、「相対(あいたい)方式」と「オークション方式」があります。相対方式は売り手企業と買い手企業が双方で価格交渉を行う方法です。オークション方式は、その名のとおり、複数の買い手企業が金額を提示し、売り手企業がその中から選択する方法です。

オークションの場合、売り手企業から「IM(Information Memorandum)」と呼ばれる、売却対象の事業内容や過去の財務諸表、将来の事業計画などをまとめた資料が提供されます。買い手企業はこの資料を検討したり、独自にデューデリジェンスを行ったりして、対象企業の価値を判断します。IMの提供から1次入札までは期限があります。案件の規模にもよりますが、一般的には10日~2週間前後です。中には1週間という場合もあります。

わずか1~2週間と聞いて、短いと思われる人もいるかもしれません。では、長くすればするほどそれだけ必要な情報が入手できるかというと、そうでもないのです。さらに入札までの期間が長いと、提示価額が下がる傾向があります。買い手企業がさまざまなリスク情報に対して不安を感じるようになるからです。特に昨今は、災害などのほか、コンプライアンスやガバナンス、地政学的なリスクなど、さまざまなリスクに気を配る必要が生じており、時間をかけて調べれば調べるほど、リスク要因が顕在化し、相手企業の評価を下げる心理的要因になります。

――限られた時間で企業価値を評価するには、どうしたらよいですか?

それはやはり、「自社にとってどのような価値があるか」を判断することにほかなりません。中には「この会社を買いたい」という強い「思い」=決断力で入札額を提示する企業もあります。買収に成功した(オークションで選ばれた)事例を見ると、こうした決断力すなわちスピードが重要だと感じます。

欧米企業、特にアジアのオーナー系企業などでは意思決定が速いと感じますね。逆に、日本の企業などは「もっと正確に価値を判断したい」と資料を探したり、社内で稟議を進めているうちに他社に出し抜かれてしまうこともあります。「この企業は必ず買収する」といった決意ありきでディールに臨むことも時には必要だと感じています。(続く)

取材・文:M&A Online編集部

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