M&Aでは企業価値評価が鍵になるが、日本企業の大多数を占める中小企業の評価はどのようにするのか。企業再生やM&A案件で豊富な経験を持つ、髙野総合会計事務所の小宮孝之氏に聞いた。

M&Aに必勝法などない

――M&Aの評価方法について教えて下さい

 企業評価の絶対的な方法はありません。いくつかの手法を補完的に併用するのがセオリーです。例えば、「純資産価額法」は、企業が保有している直近時点の財産(資産負債)に着目する方法です。また「DCF」法は、企業の将来収益またはキャッシュフローに着目する方法です。このほか、市場価格(相場)に着目する「類似会社比準法」などもあります。

――純資産価額法の特徴は?

 純資産価額法の特徴は、企業の持つ将来の収益や期待値が評価額に反映されないことです。そこで、M&Aの売買価額交渉過程で純資産価額に加えて「のれん」を考慮する場合もあります。会計上、自社の「のれん」が貸借対照表に表現されることはありませんので、会社の売り手企業にとっては、単なる財産価値だけでなく、そうした付加価値や収益性も自社の売却額に加味して欲しいと願うところでしょう。

※「のれん」とは、企業の持つノウハウ経験などから生じる無形の付加価値のことです。会社法が施行されるまでは「営業権」と呼ばれていました。

――売り手としては付加価値や収益性も考慮して欲しいですよね

 そこで、活用されるのが「DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法」と呼ばれる企業価値評価法です。その名のとおり、事業が生み出す将来のキャッシュフローを予測し、それを一定の割引率で割り引いて現在価値を算出するものです。

 このため、DCF法では、評価対象会社の事業計画が必要となります。算定にあたっては、おおむね5年程度の事業計画を利用します。事業計画の精度・信頼性が大きな影響を与えることになります。また、割引率をいくらにするのかも重要なポイントです。一般的な企業が単独でこれを算定することは容易ではありませんので、一般的には外部のプロフェッショナルに依頼します。

 ところで、財務諸表に表れない企業価値として「人」は無視できません。買収後、相手先の従業員がモチベーション高く働いてくれるかどうかが収益を大きく左右します。買収したら多くの有能な従業員が退職してしまったということは防ぎたいものです。ですから買い手企業は、相手先の従業員の信頼や協力を得ることも大切になってきます。

――M&Aで企業の価値の計り方を誤ったがゆえの失敗が多いと聞きます

 まずもって、何をもって成功と言うか、何をもって失敗とするかという定義が難しい。仮に「当初想定したようにキャッシュフローが出なかった」ことをもって失敗とすれば、 ここにはいくつかの原因が考えられます。第2回で述べたことと矛盾して聞こえるかもしれませんが、とにかく「買いたい」という思いが強すぎて、将来ビジョンも描けないまま買ってしまったという例です。買収はスタートにすぎません。持続的な成長に向けてやるべきことをしっかりと行っていく必要があります。

 繰り返しになりますが、企業評価は絶対的なものではないとお話ししました。事業環境が変化することにより、価値も変わります。顧客のニーズが変化したり、新たな競合企業やサービスが登場したりすることもあるでしょう。特にITの領域は、なかなか先を読むのが難しいところです。

 売る側も買う側も、M&Aに必勝法はありません。海外の企業ではM&Aにより買収した企業や事業でも、ポートフォリオの一つとして冷静に見極め、「見込みがないならやめる」といった姿勢で臨んでいるところが少なくありません。日本企業も、リスクとリターンのバランスでM&Aに取り組む考え方が必要でしょう。(了)

取材・文:M&A Online編集部

■第1回:M&Aによるシナジー効果がどれほど生みだされるのかがポイント
■第2回:この会社を買いたいという強い思いと決断力で入札額を提示する企業も