流動性ディスカウントの論争

「100%持分の支配株主価値を評価する場合、非流動性ディスカウントは必要か?」

この点において、100%持分は市場性があり、ディスカウントの必要は無いという評価者がいる一方、それは評価に用いた手法に依存するとの説を採る評価者も存在します。

例えば、公開企業データから派生した類似企業倍率や割引率(収益率)を用いる場合、それらの数値には、公開株式は非常に短期間で売却可能であるという前提がありますが、非公開株式の場合には、その前提は成立しないと考えられます。そう考えると、そのような前提に基づいて算出された評価額に対しては、ある程度のディスカウントが必要なのではないかと考えるのです。

この100%支配持分の流動性欠如に対するディスカウント率を実証する研究について、実務上、わが国で広く受け入れられているものは存在しません(米国でも状況は変わらないようです)。したがって、先の数値例で示したように、少数株主価値に対するディスカウント率を基本として、評価者が主観的に割引率を減少させる方法が、実務上は採られていると思われます。

※注:非公開企業の評価で使われる「非流動性ディスカウント」とは、あくまで非流動性ディスカウントであり、「流動性ディスカウント」とは別物です。

その他のディスカウントの考え方

その他、実務で使用するディスカウントの考え方を簡単にご紹介します。

・小規模企業に係るディスカウント(Size Premium)

小規模な非公開会社を、大規模な公開会社と比較する時には、規模のための調整をすることが適切な場合があります。小規模な会社は、資金調達の手段、市場の開拓や新製品の開発をするための経営資源、市場の低迷を乗り切る体力等に関していえば、相対的に制約を受けています。また、小規模な会社は、大規模な会社よりも資本コストが高くなる可能性もあります。この小規模ディスカウントは、修正CAPMにおける割引率の調整として適用されます。

・キー・パースン・ディスカウント(Key Person Discount)

キー・パースン・ディスカウントは、その事業の売上・収益の大部分がある株式会社のオーナー(所有者)または従業員に依存している非公開会社を評価する場面に適合すると思われます。このキー・パースンとしては、収益を生み出す人物、技術的な知識を有する人物、または供給者、顧客、銀行と親密な関係を有している人物等が考えられます。

事業においては、ある個人の貢献が非常に重要である、依存が大きいために、その個人を失うことにより、現在または将来の利益水準に悪影響を与える可能性が高いということが多々あります。非公開企業のみならず、公開企業であっても、特にIPO時点での開示書類上において、事業等のリスクとして記載される事例は良く目にします。

キー・パースン・ディスカウントは、そのような重要人物への依存度が高い事業を前提にしており、ある企業内のキー・パースンを現実にまたは潜在的に失うことにより生ずる価値の減少を反映するために、株式持分の価値から減少される金額・割合をいいます。

このように企業価値の算定にあたっては、様々な評価手法とディスカウントの考え方が存在します。なお、ご紹介した小規模企業に係るディスカウント、キー・パースン・ディスカウントは、実務で使用しており理論的には納得できるものの数字根拠は乏しいことを、ここに念のため一言申し添えておきます。

文:M&A Online編集部