ストック・オプション会計の導入

皆さんご存知の通り、ストック・オプションの会計原則の変更が過去に行われ、2006 年5月1日以後にストック・オプションを発行する企業は、その付与時の公正な評価額を費用として損益計算書に計上することが義務付けられた。

従来、ストック・オプションは、無償で付与され、会社財産(特に現金)の流出がないというメリットから、資金力の乏しいベンチャー企業などでは有力なインセンティブプランとなっていた。しかし、この費用計上の義務化により、当期利益への悪影響が避けられないことから、ストック・オプションの利用は減少していくものと考えられていた。

しかしながら、その一方で、今まで税務上全く認められなかった損金が計上されるケースも出てきたことにより、「新しいメリット」が生まれ、それをうまく利用している企業も出てきている。

税制非適格ストック・オプションのメリット

ストック・オプションは、所得税法上、税制適格と税制非適格とに分類されている。従来、この分類は、ストック・オプションを付与される役員・従業員などの側において、課税される所得とそのタイミングの区分を規定したものであった。結論としては、税制適格の場合には、権利行使時に発生する給与所得を、売却時まで繰延べ、譲渡所得として課税することを規定しており、税率及び課税時期上のメリットを認めている(「税制適格・非適格ストック・オプションの図解」参照のこと)。

一方、「ストック・オプション会計の導入」で述べた「新しいメリット」とは、ストック・オプションの発行法人である企業側に生まれたものであり、税制非適格の場合に認められる。具体的には、発行側企業におけるストック・オプション費用の損金算入である。

法人税法上、ストック・オプションに関しては、その個人においてその役務の提供につき所得税法等の規定による給与等課税事由が生じた日に、その役務提供を受けたものとして法人税法の規定が適用される(法人税法第54 条第1項)、とあり、ここで、給与等に含める取得とは、「所得税法に規定する給与所得、事業所得、退職所得及び雑所得」(法人税法施行令第111 条の2第1項)としている。

つまり、ストック・オプションを付与された従業員などにおいて給与等課税事由が生じた場合には、発行法人側で損金算入ができることになる。また、損金算入額は、新株予約権の発行が正常な取引条件で行われた場合には、新株予約権の発行の時の価額に相当する金額(法人税法施行令第111 条の2第3項)としている。

会計上、無償で付与され、会社財産の流出がないストック・オプションを費用計上しなければならない点はデメリットと考えられる。しかしながら、無償で付与され、会社財産の流出がないストック・オプションの費用を損金算入できるということは、発行体企業にとって大きな税務上のメリットではないだろうか。

ストック・オプションに関連して、給与等課税事由が生じるのは、非適格の場合のみ。従って、発行企業の方で損金算入するメリットは、税制適格のストック・オプションでは享受することができないため、最近は、あえて税制非適格のストック・オプションを発行している企業も増えてきている。また、税制非適格の場合には、税制適格要件を考慮しない柔軟な設計が可能になることもメリットである。今回は、権利行使価額1円ストック・オプションの退職金としての利用を例に、そのメリットを考えてみたいと思う。

退職金代わりの権利行使価額1円ストック・オプション

退職金代わりの権利行使価額1円ストック・オプションは、設計によって、退職金として活用することもでき、数多くの企業でその利用が増えている。具体的には、権利行使期間を長くした上で、権利行使条件として退職することを加え、さらに権利行使価額を1円としておけば、付与された従業員などは、ほぼ退職時の時価で株式をもらうことができる。

 最近、特に、役員の責任が重くなる一方で、役員退職慰労金制度を廃止する企業が増えているが、この方法によれば、ストック・オプションを、同制度を補完するものとして機能させることができる。

また、同ストック・オプションを、実質的な退職金として機能させるためには、税務上、退職所得として認められるかどうかが問題になる。すなわち、税制非適格ストック・オプションは、原則的には、権利行使時に権利行使価額と時価との差額について、給与所得としての課税を受けることになる。

しかしながら、給与所得として課税されるのであれば、役員退職慰労金として支給し、退職所得として課税される場合と比べて、従業員などの側で多額の所得税を課せられることになり、税制上のメリットを受けることができない。

伊藤園の事例

この税務上の扱いについては、伊藤園<2593>の事例が参考になる。伊藤園は、04 年9月1日に役員退職慰労金廃止の精算のために、ストック・オプション目的の新株予約権を以下の条件で発行した。

〇名称: 株式会社伊藤園第2回新株予約権
〇割当先: 取締役19 名、監査役3名、子会社の取締役3名
〇発行日: 04 年9月1日
〇権利行使時の発行株式数: 146,000 株
新株予約権の発行価格: 無償
〇権利行使価格: 1株につき1円
新株予約権の権利行使期間: 04 年9月1日~34 年8月31 日
〇行使条件(抜粋): 新株予約権を割り当てられた時に就任していた会社の役員を退任した翌日から10日以内のみ権利行使可能当該新株予約権は、権利行使期間が30 年を超えており、適格要件を満たしていない税制不適格ストック・オプションに該当。

伊藤園は、当該ストック・オプションの権利行使時の課税関係を退職所得として差し支えないかどうかについて、事前照会を行い、東京国税局から差し支えない旨の文書回答を得ている。

この場合、ポイントとなるのは、ストック・オプションが実質的に退職金と同様と認められるかどうか、であると考えられる。本照会では、ストック・オプションの行使条件が、役員退任後10日間に限定されており、また、権利行使価格は1株につき1円とほぼ無償であるため、ほぼ退職時に、その時点の株価で退職金を受領したのと同様であることを伊藤園が主張し、その主張が認められたものである。

この照会では、発行側企業の税務上の取扱いについては触れられていないが、「給与等課税事由」の給与等に退職所得が含まれることから、発行側企業におけるストック・オプション費用の損金算入は可能であると考えられる。

また、本件のように1円ストック・オプションの場合には、ストック・オプション費用の総額は、ストック・オプション付与時の時価とあまり変わらない金額となり、損金算入メリットも無視できないものとなる。

東京国税局の回答は、具体的にどのような場合に、退職所得として扱われるかどうかについて規定したものではない。しかしながら、伊藤園のケースのようなストック・オプションの設計ができれば、ストック・オプション会計による費用計上を行った場合でも、発行側企業、受領した従業員などの双方にとって、メリットとなるのではないかと思われる。

税制適格・非適格ストックオプションの図解

文:公認会計士・小林 憲司(ビバルコ・ジャパンHPより転載)