完全子会社化取引における買収後の経営体制の合意について考える|ニトリの「島忠TOB」から

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5. 経営統合後の経営体制の合意に関する問題点

(1) 一般株主との利益相反となる懸念

仮に対象者取締役会が、対象者現経営陣の身分保障を重視し、対象者による公開買付けに対する賛同表明の条件とした場合には、一般株主の利益の犠牲のもとに現経営陣の保身を図っているという利益相反のおそれが生じる。

「公正なM&Aの在り方に関する指針」では、M&A を行う上での尊重されるべき原則の一つとして、「企業価値の向上」(望ましいM&Aか否かは、企業価値を向上させるか否かを基準に判断されるべき)を掲げている。そのため、対象者の取締役会及び特別委員会としては、対象者経営陣の保身の欲求又は要請に影響されることなく、対象者経営陣による経営体制維持を含む経営統合後の経営方針が企業価値の向上に資するものであるか、批判的に検討することが求められる。

本件では、島忠の取締役会及び特別委員会は、DCMによる公開買付けとの比較検討の上でニトリHDと本経営統合契約の内容を含む公開買付け条件交渉を行っているほか、島忠の特別委員会はその答申書において、「本統合契約においても、両者間の業務提携やシナジーの迅速な実現を促進するため、統合推進委員会における当社の5か年事業計画の決定、当該5か年事業計画の対象期間における当社の経営体制、相互の役員派遣、その他商号やブランドの取扱いを含む本公開買付け後の事業運営等についての条項があり、本統合契約の枠組みの下で、公開買付者グループと協同すれば、上記各シナジーは十分実現可能であるものと認められる」ことを今回の公開買付けが企業価値の向上に資する理由として掲げており、十分な検討を行っていることが伺われる。

(2) 実効性の限界

完全子会社化取引において、公開買付者と対象者との間で経営統合後の経営体制に関する合意を行っても、完全子会社となる対象者は完全親会社となる公開買付者に完全に支配されているため、公開買付者による契約遵守の実効性に疑問がある。仮に完全親会社が契約違反をしても、契約違反を問うべき立場の完全子会社側の経営陣は容易に解任することで契約違反を問えないようにすることが可能だからである。

この点、上場を維持する公開買付けの場合も、親会社が子会社を支配しており、少なくとも会社法上は子会社経営陣を解任可能であることは同様であるが、上場子会社では少数株主が存在するため、対象者取締役会は親会社から一定程度独立性を維持しなければならない。

この上場子会社の独立性維持はコーポレートガバナンス上求められていることであり(例えばグループガバナンスガイドライン6.「上場子会社に関するガバナンスの在り方」参照)、親会社としても上場子会社管理について完全な裁量を有しているわけではない。

そのため、ひとたび上場親子会社間で契約が締結されれば、その内容は上場子会社の少数株主の利益保護のためにも遵守、尊重されなければならない。このように、上場を維持する公開買付けとの比較において、完全子会社化取引での経営体制の合意は実効性に限界がある点も問題と言える。

6. 最後に

公開買付者と対象者との関係性、対象者が有する課題、公開買付け後の経営方針は案件によって様々であり、完全子会社化取引において経営統合後の業務提携内容、経営体制等について合意するかどうか、合意するとしてもどのような内容とするかは一般化できるものではない。しかし、完全子会社化後のシナジー実現策の一環として、経営統合後の合意を行うニーズは少なからずある。

他方で公開買付者と対象者との間の経営統合後の合意(とりわけ完全子会社化取引の事案)の法的性質や、公開買付けにおける当事者の行為規範の観点からの望ましいあり方については、公の場で議論がされているものはあまりみあたらないため、今後のさらなる議論が望まれるところだろう。本件における本経営統合契約の協議過程と合意内容は、その意味で今後の参考となるケースといえる。

文:柴田 堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)

柴田 堅太郎 (しばた・けんたろう)

所属弁護士会
第一東京弁護士会・2001年登録(司法修習54期)
ニューヨーク州弁護士・2007年登録

取扱分野
M&A、組織再編、ジョイントベンチャー、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、 敵対的買収防衛、株主総会指導、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件、コンプライアンス、労務問題、企業法務全般

柴田・鈴木・中田法律事務所 HP
http://www.ssn-law.jp/


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