完全子会社化取引における買収後の経営体制の合意について考える|ニトリの「島忠TOB」から

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3. 経緯

ニトリHDの公開買付届出書によれば、ニトリHDによる公開買付けに関する提案、協議の中で、以下の経緯があった旨が開示されている。

① ニトリHDによる経営統合及び完全子会社化の提案に対して、島忠取締役会及び特別委員会より、本経営統合契約の交渉の意向があったこと。
② ニトリHDは、島忠がDCMとの間で締結した経営統合契約(以下「経営統合契約(DCM)」という。)に係る契約条件との比較という視点を評価軸の一つとされている印象を受けたため、ニトリHDとしても、経営統合契約(DCM)の契約条件を意識して契約条件の合意を得ることを基本方針としたこと。
③ 島忠取締役会及び特別委員会から、ニトリHDに対し、(i)経営統合契約(DCM)においては島忠従業員の雇用維持が3年間、経営体制の維持が当面の間とされているところ、島忠はニトリHDとの協議を受け5か年の事業計画の策定を検討することから、当該事業計画を遂行するため、上記期間をいずれも5年間としたいこと、(ii)ニトリHDから島忠への取締役1名の派遣という前提の下、島忠にからニトリHDへ執行役員を派遣することの2点の要望をしたこと。
④ これに対して、ニトリHDは、上記③(i)は島忠の現在の従業員及び経営陣による5か年の事業計画の遂行が両社の企業価値の最大化に資する可能性があると考えたことから応諾し、上記③(ii)については、両社の連携をより緊密なものとする観点から、(ア)ニトリHDから島忠への取締役の派遣人数を3名としたい旨の提案を行い、その代わりに、(イ)島忠からニトリHDへの派遣は取締役1名及び執行役員4名とすることを提案し、島忠の了承を得たこと。

以上のように、ニトリHDによる公開買付けはDCMによる公開買付けに対する対抗公開買付けであったことから、ニトリHDが島忠取締役会から賛同表明を得るには、島忠取締役会及び特別委員会の意向により、公開買付価格のプレミアムのみならず、経営統合契約の条件面でもDCMを超える条件を提示する必要があったことによるところが大きかったようである。

また、本件では公開買付者から対象者に取締役を派遣するのみならず、対象者から公開買付者に取締役及び執行役員の派遣も行うという珍しい事例であり、当事者の意識としては対等な経営統合の色彩が強い案件であったように伺われ、この点も上記の経営統合契約に基づく合意を基礎づける事情の一つであったように思われる。

4. 評価

公開買付けにおける当事者の行為規範の観点から、以上の経営統合後の経営体制に関する合意について分析すると、以下のような整理が考えられる。

(1) 書面による合意をする意味について

公開買付届出書では、経営統合後に行うことが予定されている施策を含め、公開買付け後の経営方針の詳細な開示が求められる。しかし、公開買付者が経営方針について開示書類上表明したのみでは、公開買付者と対象者との間で合意が成立したとは言えず、完全子会社化後、公開買付者による施策実施の実現が必ずしも法的に保全されているわけではない。

そこで、対象者としては、経営統合後の業務提携の内容や経営体制を書面で合意しておくことによって、できる限りこれらの実現性を高め、もって企業価値維持向上の担保を図ることを狙ったものと思われる(但し、後述の「エンフォースメントの限界」参照)。

(2) 経営体制維持の合意について

完全子会社化取引の場合には、上場を維持する連結子会社化の事例と異なり、親会社としては少数株主の利益に配慮する必要がなくなるので、本来、対象者経営陣の選解任はその自由裁量により行われてよいはずである。

もっとも、本件のように対象者経営陣主導のもとで作成される事業計画を公開買付者との間で合意している場合には、かかる事業計画の期間中は対象者における経営陣の身分を保障した方が、事業計画書所定の目標達成に向けて(解任される懸念なく)集中させることでき、経営陣のモチベーション維持の手段として有効である、という考え方も合理的だろう(この考え方は、一般に事前警告型買収防衛策の有効期間が事業計画の期間とあわせて設定されていることが多いことにも類似する)。

その意味では、経営体制維持の合意は、契約当事者が公開買付者と対象者ではあるものの、実質的には公開買付者による対象者現経営陣への経営委任の合意という側面があるように思われる。

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