某外資系ファンドのマネージングディレクターいわく、ファンドとして最も重要な仕事は、「正しい社長を選ぶこと」だそうだ。社長が企業価値を決めるといっても過言ではないということにほかならない。もちろん、最低限の経営スキル・経験といったものは必要だが、それより重要なことは、送り込む社長の要件は案件ごとで千差万別ということ。適切な経営人材を選ぶことは容易ではない。
私がおすすめする、経営人材の選定5ステップはこうだ。
1. M&Aの目的から、対象企業に対する期待を明確にする
2. デューデリジェンスにおいて、対象企業の経営/事業における力量を評価する
3.1と2から、対象企業に課すガバナンス方針(規律と動機づけのバランス)を設定する
4.3から、対象企業の経営人材に期待する役割と要件を設定する
5.要件と合致する人材を、内部、あるいは外部から探す
いくつか大事なポイントに触れよう。
1つ目のポイントは繰り返しになるが、“人ありき”で経営人材を選定するのではなく、“課題ありき”で経営人材を選定するということ。そのためには、当該買収の目的から1つ1つ検討していくしかない。M&Aは、M&A戦略フェーズ、ディールフェーズ、PMIフェーズと連関しているため、前フェーズの検討成果は、後工程となるフェーズにも影響を及ぼすからだ。
2つ目のポイントは人材要件に合致する人材が内部にいなければ、外部からの招聘も検討すべきということ。ポストM&Aの目的を企業価値向上とするならば、過剰な内製化主義を捨て、外部人材にも目を向けるべきだ。また、内部、外部問わず、一人に限定しなくてもよい。複数人で要件を合致できるならば、それら人材をセットで考えればよい。
最後に3つ目のポイントは、実際に送り込む人材には、期待役割をしっかりと伝えること。急に社長から電話があり、翌月には対象会社に行くように命ぜられ、なぜ自分が選ばれたのかよく分からないまま着任したという話も頻繁に聞く。子会社への期待、ガバナンス方針、その人材に求める役割を事前に伝えることで、事後の認識齟齬やモチベーション低下も避けられる。
文:経営コンサルタント、MAVIS PARTNERS代表 田中 大貴
【筆者略歴】早稲田大学商学部卒。Nanyang Executive MBA在学中。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ジェネックスパートナーズ、ベイカレントなどを経て現職。グロービスのMMP講師(マーケティング・ファイナンス)も務める。
これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。