【M&Aインサイト】譲渡制限株式の売買価格決定に関する裁判例(非流動性ディスカウントを認めた事例)
今回は、譲渡制限株式の売買価格決定に関する裁判例(非流動性ディスカウントを認めた事例)をご紹介します。
本件では、上記のとおり、被告である日立造船が原告らをNBLの取締役から解任したうえ、唯一の収益事業を会社分割により新設会社(日立造船コンポジットマテリアル株式会社。以下「新会社」)に承継させた後、新会社の株式を全てNBLから日立造船に譲り渡し、NBLを破産させた一連の行為について、日立造船やNBLの新代表取締役に対し、NBLの株主兼債権者である原告らが、株主間協定違反、善管注意義務・忠実義務違反等を主張しており、①これら一連の行為が株主間協定に違反しないか(日立造船の不法行為の成否)、②NBLの取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反しないか(NBLの新代表取締役の任務懈怠の有無)が、主に争われました。
これに対し、本判決は、①②とも、被告らの責任を否定し、原告らの請求を全て棄却しました。
まず、①(株主間協定違反)の点については、株主間協定で「NBLのFRP事業の推進や拡大を図るために協力関係を構築すること」などが同協定締結の目的として定められており、FRP事業をNBLから独立させることはこの目的と直ちに合致するものではないものの、「当事者の事業協力を一般的に謳うものに留まり、具体的な法的義務を負わせたものとまでは解することはできない」と判断しています。さらに、株主間協定締結時点から、日立造船が任意に新株予約権を行使することによりNBLの過半数株主となり得ることが前提であったにもかかわらず、その後も原告らにNBLの経営に関与を保証する条項も存在しないこと、一連の手続きが会社法を遵守した手続きで行われ、新会社の株式譲渡の対価も適正であることなどを指摘して、原告らをNBLの取締役から解任し、NBLの財務状況が改善しない一方で簿外債務の懸念も生じていた自体を踏まえてなされた上記一連の「旧経営陣の解任→新設分割によりFRP事業を新会社に承継→新会社の株式を日立造船に譲渡→NBL破産」という行為につき、FRP事業に経営資源を集中させることにより同事業の継続を図るためのものとして不法行為に該当しないと判断しました。
また、②(役員の善管注意義務・忠実義務違反)についても、上記の理由から、過半数株主である日立造船がFRP事業のNBLからの切り離しという決断に至ったことを受け、FRP事業の存続のためには日立造船からの資金援助以外に現実的な選択肢があったとは認められない状況下において、新設分割によりFRP事業を新会社に切り離したうえで、新会社の株式を日立造船に売却、その対価を債権者に対する弁済に充てるために破産手続きを利用したことは、合理性を欠く不当な判断であったということもできないとして、この点についても、原告らの主張を排斥しました。
今回は、譲渡制限株式の売買価格決定に関する裁判例(非流動性ディスカウントを認めた事例)をご紹介します。