敵対的TOBで注目の会社が映画の舞台に!『前田建設ファンタジー営業部』

※この記事は公開から1年以上経っています。
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©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

1月31日公開の映画『前田建設ファンタジー営業部』が別の意味でM&A業界から注目を浴びている。というのも、現実の世界で映画の主役である準大手ゼネコンの前田建設工業<1824>が同グループ企業(持分法適用会社)の前田道路<1883>ーいわゆる身内に”敵対的TOB”を仕掛けたからだ。

TOBと映画上映の“同時進行”という異例ともいえる事態に、TOBの行方も本作のストーリも気になるところだ。

「うちの技術で、マジンガーZの地下格納庫を作ろう!」

「空にそびえる鉄(くろがね)の城…」という主題歌とともに、水面が中央で割れたプールの下の格納庫から巨大ロボットが勢いよく現れる。1972~74年に放送され、その後夕方の再放送枠で何度も放映された人気アニメ「マジンガーZ」の印象的なシーンだ。

現在の技術と資材でマジンガーZの格納庫を建設する(ただし実際には作らずウェブサイトで紹介する)という上司の無茶ぶりに、前田建設工業の若手社員が本気で取り組んだ実話を映画化したのが、本作『前田建設ファンタジー営業部』である。

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あらすじ紹介

2003年、前田建設工業のオフィスの片隅にある広報グループ。リーダーのアサガワ(小木博明)が「マジンガーZの格納庫を現在の技術と材料で建設できるか」とメンバーのドイ(高杉真宙)、ベッショ(上地雄輔)、エモト(岸井ゆきの)、チカダ(本多力)に問いかけた。それぞれが持論を展開すると、アサガワはそれを検証するウェブサイトでの連載を提案。かくして、アサガワに巻き込まれる形で広報グループは、マジンガーZの地下格納庫を作る依頼をファンタジーの世界から受けたという設定で始動する。

ドイたちは嫌々ながらプロジェクトに携わっていたが、掘削オタクで土質担当のヤマダ(町田啓太)、クセの強いベテラン機械グループ担当部長のフワ(六角精児)たちが本気で取り組む姿を目の当たりにして発憤。社内だけでなく社外からも協力を得て、前代未聞のミッションに立ち向かっていく。

©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

遊び心ある企画で公式サイトが話題に

「前田建設ファンタジー営業部」は、同社のホームページ上に実在するWebコンテンツ。土木・建設業のPRを目的として、2003年に若手社員のボトムアップ活動として始まった。アニメやゲームの世界に存在する建造物の建設を工期・工費を含め正確に検証する。月に1回ペースで更新され、大手検索サイトで紹介されたことがきっかけに話題になった。

「マジンガーZ」の地下格納庫編以降も「銀河鉄道999」高架橋編、「機動戦士ガンダム」地球連邦軍ジャブローを創ろう編、「宇宙戦艦ヤマト」建造準備および発進準備工事編など、現在も更新が続く。

これを知った劇団「ヨーロッパ企画」代表の上田誠が脚本を書き、2013年に舞台化。そして再び上田誠の脚本で2020年に映画化された。

<以下、ネタバレを含みます>

コメディタッチで描く「主人公の成長物語」

ファンタジー業務部とその周辺には、一癖も二癖もある役者が並ぶ。発案者のリーダー役アサガワにおぎやはぎの小木博明、メンバーのチカダにヨーロッパ企画の本多力を配した。

難しい話になると居眠りを始めるエモトを演じた岸井ゆきのの虚ろな表情とそれにぴったりの効果音は面白く、上地雄輔は熱さほとばしるオーバーアクションで笑いを誘う。土について喋り出すと止まらない、オタク気質なヤマダをイケメンの町田啓太が演じる意外性もいい。あえてもっさりとした風貌に扮して、難しい専門用語が続く長台詞を流暢に披露する。

コメディタッチな展開の中で芯を通すように描かれるのが、主人公ドイの社会人としての成長である。「大学生のころは遊んだり騒いだりしていた。社会人になったらそれも終わり。あとは粛々と生きていく」とつぶやくドイが、本気で取り組む周りの人々に触発されて変わっていく。

土木・建設業のカッコよさ、魅力を堪能せよ!

若手社員の目を通して土木・建設業の現場の迫力や魅力を映し出すところも、本作の見どころである。「掘削」について学ぶために、ドイとエモトが土質担当のヤマダの案内でトンネルの工事現場を見学する。

©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

撮影は前田建設が建設中の福島県のいわき市と田村市をつなぐ県道吉間⽥滝根線広瀬1号トンネル工事で実施。何本ものアームで掘削をするドリルジャンボがトンネルを掘っていく様子は迫力満点で、大きなスクリーンで見ると圧倒されるだろう。

ダムに詳しい機械グループ担当部長のフワは、ドイを静岡県川根本町にある長島ダムへ連れて行くシーン。ドローンを使った俯瞰撮影や普段は入ることのできないダムの内部での撮影はまるでドキュメンタリー作品のようだ。フワを演じた六角精児が電車マニアなことは有名であるが、実はダムにも詳しいらしい。嬉々として説明する様子は演技を超えたリアリティがある。

前田建設が手に負えない難題にぶつかったとき、Hitz日立造船や栗本鐵工所、前田製作所が無償で技術的協力をしてくれたそうで、映画の撮影現場にもなった。栗本鐵工所のオフィスシーンで美術部がセットとして制作した企業ロゴのプレートは、そのまま使われているという。

普段、見慣れないモノづくりの現場は興味深い。本作をきっかけに土木・建設業に興味を持つ人が出てきそうだ。

文:堀木 三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<参考URL>
・本TOBについてマジメに知りたい人はM&A速報へ
前田建設ファンタジー営業部公式サイトはこちら

<作品データ>
『前田建設ファンタジー営業部』
出演:高杉真宙 上地雄輔 岸井ゆきの 本多力 町田啓太 六角精児 小木博明(おぎやはぎ)
監督:英勉
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
原作:前田建設工業株式会社 『前田建設ファンタジー営業部1 「マジンガーZ」地下格納庫編』(幻冬舎文庫) 永井豪『マジンガーZ』
配給:バンダイナムコアーツ 東京テアトル
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション
2020年1月31日(金)、新宿バルト9ほか全国公開
公式サイト:https://maeda-f-movie.com/

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