マット・デイモンとクリスチャン・ベイルを主演に迎え、ル・マン24時間耐久レースで絶対王者フェラーリに挑んだ男たちの奇跡の実話が映画化された。2020年1月10日公開の『フォードvsフェラーリ』である。
クラッチを踏み、ギアチェンジ。アクセルを踏み込むとエンジン音が鳴り響き、メーターの針が跳ね上がる。まるで運転席に座っているような臨場感が劇場で味わえる。
ル・マン史上に残る熱戦に至る背景には、フォードとフェラーリの決裂した合併話があった。
ル・マンでの勝利という、フォード・モーター社の使命を受けたカー・エンジニアのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)。常勝チームのフェラーリに勝つためには、フェラーリを超える新しい車の開発、優秀なドライバーが必要だった。
彼は、破天荒な英国人レーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)に目をつける。資金と時間の制約の中、シェルビーとマイルズは力を合わせて数々の難関を乗り越え、いよいよ1966年のル・マンで絶対王者フェラーリに挑戦することになる。
フォードがル・マン24時間耐久レースでフェラーリに挑戦した背景には、会長であるヘンリー・フォード2世(トレイシー・レッツ)のフェラーリへの強い対抗心があった。
彼が祖父から事業を受け継いだ頃、フォードの市場シェアが30年ぶりに最低となったところに戦後の鉄鋼不足が重なり、フォードは経営危機に陥っていた。マーケット戦略を担当するリー・アイアコッカ(ジョン・バーンサル)は戦後生まれの若い世代を魅了する速くてカッコいい車を売り出すべきだとし、レース経験豊富で優れた技術力を誇っていたフェラーリの買収をフォード2世に進言した。フェラーリは当時、レーシング・チームへの過剰投資で財政難に苦しんでいたのである。
順調に進むかと思われた買収計画だったが、契約成立直前になってフェラーリ創業者のエンツォ・フェラーリ(レモ・ジローネ)は契約を拒否し、交渉に訪れていたリー・アイアコッカを追い返した。なぜ、フェラーリは態度を翻したのか。そこには買収をめぐる別の会社の影がちらつく。しかし、それだけではない。フェラーリがアイアコッカに語ったフォードの印象から、その答えは見えてくる。現実を求めるフォードと夢を追うフェラーリは相容れないのだ。しかしフォード2世はそれが理解できず、恨みだけが残った。
フォードの無謀な挑戦を請け負ったのが、キャロル・シェルビーだった。ル・マンでの優勝経験を持ちながら心臓病でレース界から身を引いていたシェルビーは、メカニックに強くレーシングドライバーとして抜群の腕前を持つケン・マイルズを仲間に引き入れる。ただ、マイルズは負けず嫌いの一匹狼タイプで企業の論理を理解しない。マシンの開発に多大なる貢献をするが、フォード首脳陣の評価は著しく低かった。
特にモータースポーツ部門を統括する副社長レオ・ビーブ(ジョシュ・ルーカス)はマイルズを苦々しく思っており、チームから外そうと画策する。それをシェルビーは、驚くような大胆な行動で阻止する。シェルビーをバックアップする技術スタッフとの連携プレーが小気味よい。
シェルビーとマイルズはレースへの情熱を共有するうちに固い友情で結ばれていく。その友情がマイルズを変えた。
クライマックスのレースでシェルビーの立場を思いやったマイルズの行動に胸が熱くなるだろう。そんな2人にエンツォ・フェラーリはひっそりと敬意を表す。商業主義とは一線を画し、純粋にレースを愛する男たちの一瞬の邂逅。本作の見どころのひとつである。
アカデミー賞の前哨戦と言われる第77回ゴールデン・グローブ賞で、主演男優賞にクリスチャン・ベイルがノミネートを果たした。受賞となると『バイス』に続き、2年連続で主演男優賞受賞という快挙である。
アカデミー賞主演男優賞も『ジョーカー』ホアキン・フェニックス、『アイリッシュマン』ロバート・デニーロとアル・パチーノ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッ』レオナルド・ディカプリオとともにクリスチャン・ベイルもノミネートは必至だろう。
ゴールデン・グローブ賞は日本時間1月6日(月)に発表される。今後の賞レースを占う上でも注目が集まっている。
文:堀木 三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)
<作品データ>
『フォードvsフェラーリ』
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:マット・デイモン、クリスチャン・ベイル、トレイシー・レッツ、カトリーナ・バルフ、ノア・ジュプ
2019年/アメリカ/カラー/英語/原題・英題:Ford v. Ferrari/153分
配給: ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/
2020年1月10日(金)全国ロードショー