戦後の銀行再編の源流に、親子の愛憎を絡めて描いた『華麗なる一族』

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映画『華麗なる一族』(1974年)

1974年に公開された映画『華麗なる一族』は政財界にまたがる閨閥(けいばつ)によって富と権力を手にしてきた主人公の更なる野望と愛憎を描いた作品である。原作は1973年に刊行された山崎豊子の同名社会派小説で、『沈まぬ太陽』『白い巨塔』などとともに山崎氏の代表作として知られている。

配給収入は4億2000万円を記録し、1974年度の邦画配給収入ランキングは第4位。ちなみにこの年の同収入ランキング第1位は『日本沈没』で16億4000万円だった。

<華麗なる一族のあらすじ>

預金順位全国第10位の阪神銀行の頭取である万俵大介(佐分利信)は、都市銀行再編の動きを察知し、上位銀行による吸収合併を阻止しようと策略を巡らせる。

長女一子(香川京子)の夫である大蔵省主計局次長の美馬中(田宮二郎)を通じ、上位銀行の経営内容を極秘裏に入手し、小が大を喰う企みを目論む。その一方、万俵コンツェルンの一翼をになう阪神特殊鋼の専務である長男鉄平(仲代達矢)からの融資依頼を冷たく拒否。鉄平はサブバンクである大同銀行に融資を頼み、自社高炉の建設に取り掛かるが、悲惨な大事故が運命の歯車を狂わせていく。

戦後の関西経済界の動きが垣間見える

作品はフィクションだが、1965年に起きた山陽特殊製鋼倒産事件がモデルと言われている。過剰な設備投資によって倒産し、粉飾決算も明らかになった。同社に巨額の融資をしていた神戸銀行は太陽銀行と合併することになり、金融再編成の源流となった。紆余曲折を経て1973年に太陽銀行と合併して太陽神戸銀行となり、そして太陽神戸三井銀行、さくら銀行、三井住友銀行と再編が続き、現在に至る。

万俵家に関しては神戸の岡崎財閥がモデルという説があるが、特定の人物ではなく、複数の人物を融合して万俵大介が作られたようだ。現在も様々な企業のトップに岡崎家の流れをくむ人物が名を連ねている。

すべては銀行を守り、更なる発展を遂げるため

阪神銀行は阪神特殊鋼のメインバンクでありながら、頭取の大介は融資依頼を拒否する。鉄平の出生の疑惑に端を発した父と息子の確執は本作の基調となるテーマだ。

大介も鉄平も、それぞれの父親のくびきから逃れられない。父に自分を認めさせたい思いも手伝って高炉建設を急ぐ鉄平に対し、大介は自行の生き残りを最優先する。

大蔵省主導で金融再編が近づくなか、他行のデータをつぶさに集め、経営状況を的確にとらえ、合併のターゲットを絞り込んでいく。上位銀行に飲み込まれぬよう、阪神特殊鋼ではなく阪神銀行を優先する。

亡き父親への畏怖から暗い情念に苛まれる男と、冷徹な判断を下す経営者の二面性を演じた佐分利信の怪演もまた、本作のみどころである。

文:堀木 三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)/編集:M&A Online

<作品データ>
『華麗なる一族』1974年
監督:山本薩夫
原作:山崎豊子
脚本:山田信夫
音楽:佐藤 勝
出演:佐分利信、月丘夢路、京マチ子、仲代達矢、田宮二郎、北大路欣也、山本陽子
配給:東宝

華麗なる一族
華麗なる一族

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