ハッカーが主人公のドイツ映画『ピエロがお前を嘲笑う』

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今回ご紹介する『ピエロがお前を嘲笑う』は、2014年にドイツで公開され大ヒットを記録したサスペンス映画です。ドイツ・アカデミー賞6部門にノミネートされ、各社争奪戦の末、ハリウッドでリメイクされることが早くも決定しています。

あらすじ紹介

仲間をロシアのサイバーマフィアに殺されて、警察に出頭してきた天才ハッカーのベンヤミン(トム・シリング)。彼は世間を騒がせた殺人事件にまで関与を疑われ国際指名手配をされていた。出頭後、ベンヤミンはそれまでの人生での出来事をユーロポールの捜査官に語りだす。

学校では冴えない生活を送りいじめも受けていた、バイト先でもうまくいかず、想いを寄せている相手にもまともにアプローチができない。試験問題をハッキングしようとして捕まってしまうベンヤミンは、贖罪のための社会奉仕活動の中で野心家のマックス(エリアス・ムバレク)と知り合う。

二人は共通の趣味である“ハッキング”を通して親しくなっていく。ベンヤミンの才能を見抜いたマックスはハッカー集団「CLAY(クレイ)」を結成、国内御管理システムを手当たり次第にハッキングし、世間を混乱の渦に落としていく…。

トリッキーな仕掛け満載のサスペンス映画

あまり語り過ぎるとネタバレになってしまうのですが、二転三転するストーリーに加えて映像の特性を活かしたミステリー作品に仕上がっており、本国ドイツで大ヒットを記録したのもうなずけます。

犯罪者=天才ハッカー・ベンヤミンの独白で物語が進んでいきますが、サスペンスにおいて、この”語り(騙り)”というのは、いわゆる“信頼できない語り”であることが多いのです。

ブライアン・シンガー監督の『ユージュアル・サスペクツ』やデヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』などと同様、トリッキーな仕掛けが満載です。

こういう映画は「謎を解いてやろう!」という気概よりも、素直に映画に身を任せて、見終わった後、「うーん、みごとに騙された!」と感服・脱帽するのが正しい楽しみ方なのかもしれません。

ドイツ映画のDNA

主人公のベンヤミンは14歳でコンピュータにハマり、プログラミング言語を覚えて初めてのハッキングをします。実生活では冴えない日々を送る彼も、仮想空間やダークネット(=ダークウェブ)の世界では、憧れていたヒーローの様に振舞うことができ心を満たしていきます。

この仮想空間を表すのに現実の地下鉄とその乗客を使って表現しているのが、なかなか面白いところです。ドイツ映画は物事の表現に意外性をもたらす手法が多いのですが、本作にもそのDNAが受け継がれていると言えるでしょう。

ハッキングのシーンについてはある程度、見る側にもリテラシーがあることを前提に物語が進んでいくので、手法の解説が省かれている部分があります。ここで引っかかってしまうと、ちょっと辛いところではありますが、映画自体のテンポが速いので、テンションの高さを優先した結果の演出なのだと思えばよいのではないでしょうか。

事実、その選択は効果的に働いていて、ネットワークやセキュリティーの専門知識がなくとも意外なほどすんなりと見続けられます。まぁ、具体的なハッキング方法を克明に描くこともどうかと思いますので、賢明な判断でしょう。

エンディングについてはアッと驚くこと間違いなしの展開が待っています。突飛な展開ではありますが、結末が分かってから見直してみると、ちゃんとヒントが隠されているフェアさも持ち合わせています。

ちなみにハッカー集団のチーム名である「CLAY」とは、「ピエロがお前を嘲笑う」=「Clowns Laugh At You」の頭文字で、邦題のネタ元になっています。

文:村松 健太郎(映画文筆家)

作品データ

ピエロがお前を嘲笑う
Who Am I - Kein System ist sicher
監督:バラン・ボー・オダー
出演:トム・シリング
2014年/ドイツ/106分

ピエロがお前を嘲笑う

村松 健太郎 (むらまつ・けんたろう)

映画文筆家

2002年から映画館勤務で業界入り。2016年頃から映画文筆家として活動を開始。脳梗塞を患ったために杖片手に試写室や映画会社を行ったり来たりしています。映画祭の審査員やインディーズ映画の宣伝などもしていますが、興行出身ということもあって、少しでも多くの人の足が劇場に向かってほしいと願う日々です。年間300本の新作とそれ以上の過去関連作を見て回っています。 

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