大ヒットパンデミック映画の続編『新感染半島ファイナル・ステージ』

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映画の中の最悪の未来像とは?

大ヒットしたパンデミック3部作の最終作『新感染半島 ファイナル・ステージ』が元日に公開

ソウルを舞台に謎のウイルスによるパンデミックを描いたアニメ作品『ソウル・ステーション パンデミック』。その直後から始まり高速鉄道という限定空間で物語の密度を高め、ゾンビ映画として日本でもスマッシュヒットを記録した『新感染 ファイナル・エクスプレス』。ヨン・サンホ監督による3部作の完結編となるのが2021年元日公開となった『新感染半島 ファイナル・ステージ』です。

未知のウィルスによるパンデミック・パニックが描かれる前半と、一転してアクションが主流となる中盤以降とで全く違ったテイストを味わうことができる一粒で二度おいしい映画となっています。主演は是枝裕和最新作『ブローカー』にも出演する人気俳優のカン・ドンウォン。群像劇だった前作から変わって、英雄譚テイストで本作を牽引します。

【あらすじ】

未知のウイルスの爆発的な感染拡大と感染者達の狂暴化に揺れる朝鮮半島。ジョンソクは軍人であることを利用して姉家族を半島から脱出させようとしていました。

脱出船に潜り込めた一家ですが、感染者がいたため船内にも被害者が出てしまいます。その中にはジョンソクの姉とその子供の姿もありました。

それから4年もの間、香港に逃げ荒んだ生活を送っていたジョンソクは、ある仕事を遂行するために半島に戻ることに。その仕事とは、チームを組み3日以内に大量のドル紙幣が積まれたトラックを回収して半島を脱出するというものでした。

チームはウイルスにより凶暴化した人間たちから逃れ、トラックを手に入れるも、631部隊と呼ばれる民兵集団に襲われてしまいます。トラックも奪われ、危機一髪となったジョンソクを救ったのはミンジョンとその幼い娘たちでした。ジョンソクはミンジョン親子が半島から脱出するために協力することになり・・・。

荒廃した4年後の半島が舞台となる
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前半に描かれるパンデミック・パニック

物語は前作と同じ、朝鮮半島で発生したパンデミック・パニックから始まります。交通インフラは崩壊し、パニックになった人たちが街中にあふれ出ます。さらに、感染者達が周りの人を襲い始め、混乱に拍車がかかります。前作のヒットによって、これまでにないスケール感を手にしたヨン・サンホ監督は、実に贅沢な作りでこのパンデミック・パニックを描きました。

そして、舞台は4年後へ。脱出船の悲劇から4年の月日が経過し、香港では朝鮮半島から来た人間と言うことで、感染者ではないのかという差別を受けるシーンがあります。実際に日本では新型コロナウイルスの感染症拡大とともに、感染者や感染者と接するエッセンシャルワーカーへの差別が問題視されていますが、それを想起させるシーンでもあります。

そして、突入するデストピアと冠した半島

4年間手つかずで荒廃した朝鮮半島を舞台にした中盤以降は、『ウォーキングデッド』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を思わせるデストピアな世界で展開される冒険譚です。脱出できずに半島に残った人間たちは民兵組織を作り、究極のサバイバルを展開しています。そこに現れたジョンソクたちは究極の異物でしかなく両者は激しく衝突します。無数に現れる感染者を巻き込み荒廃した世界で生き残りをかけた戦いが描かれます。

マッドマックス 怒りのデス・ロード
マッドマックス 怒りのデス・ロード ©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

実際にヨン・サンホ監督は同系列(=ゾンビ映画)の始祖ジョージ・A・ロメロ監督の『ランド・オブ・ザ・デッド』からの影響が強いことを認めています。

映画をはじめ多くのフィクションの最大の武器の一つは時間や場所を自由自在に飛び越えることができると言うことでしょう。過去や未来を独自の視点で描き、「もしかしたら、そうかもしれない」と思わせる風景を創り上げることができます。

未来の描き方でデストピアという社会があります。ユートピア(理想郷)の対義語として作られた言葉です。ユートピアの定義がその時代における理性的で統制の取れた社会となるために、デストピアもまた、時代々々によって変化していく社会像なので定義づけは難しいですが、映画でデストピアと言えば近年は二つのパターンに分類されます。

崩壊か?発展か?

映画におけるデストピアの一つ目のパターンは、何らかの理由(核戦争、自然災害、未知のウイルスによるパンデミックなど)によって文明が崩壊した世界です。「ポストアポカリプス(終末の後)」とも表現されるこの世界では、「力こそ正義」が唯一にして絶対のルールとなっており、枯渇した物資や資源を巡って権力闘争が繰り広げられます。『マッドマックス』シリーズなどに見られる世界観で、『新感染半島 ファイナルステージ』もこの流れの一本と言えるでしょう。

もう一つのパターンは『ブレードランナー』などに代表される、文明が発展し過ぎた故に人間性が無視されてしまった究極の管理社会です。ジョージ・オーウェルの小説『1984』などから脈々と続く未来像(世界観)です。

基本的に映画の中でのデストピアというと、このどちらかをベースにしたものが主流になっています。中には発展し過ぎた機械によって文明が崩壊した『ターミネーター』や『マトリックス』のように、世界観を融合した作品もあります。

新たな変異種が発生するなどまだまだ先が見通せない新型コロナウイルスの感染症拡大は、この先どうなっていくのかわからないことばかりですが、どちらにせよ、最悪の未来=デストピアは映画の中だけであってほしいところです。

文:村松 健太郎(映画文筆家)

新感染半島

作品データ
製作:韓国
配給:ネクスト・エンターテインメント・ワールド ギャガ
上映時間:116分
公式サイト: https://gaga.ne.jp/shin-kansen-hantou/
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