アカデミー賞でディズニーを越える

2019年のアカデミー賞で『ROMA/ローマ』が監督賞含む3冠を獲得したNETFLIX(ネットフリックス)。2020年のアカデミー賞ではさらに勢力を拡大、合計24ノミネートを記録。配給会社別に見たとき、この数字はディズニーの23ノミネートを抑えて堂々の一位となります。

今や映像配信だけでなく、映画・ドラマの製作・配給会社としても大きな存在となったNETFLIX。世界190カ国以上での事業を展開し、有料契約者数1億8000万人以上。コロナ禍で多くの企業が軒並み業績を悪化させる中で、“おうち時間”にマッチしたサービス展開で業績を伸ばしています。

そんな勢いのあるNETFLIXの数々の秘話を暴露した禁断のドキュメンタリー映画が12月11日、本邦公開となりました。 

ドットコム・ブームとともに

今から25年程前、Windows95の発売でインターネットが一般家庭にも登場。海のものとも山のものともわからないこの新たなコミュニケーション手段はビジネスの可能性を感じた人たちからの投資が集まるようになり、“ドットコム・ブーム”(ネットバブル)を生みます。

1990年代半ばになるとネットスケープ(Netscape Navigator)やヤフー(Yahoo!)などの検索サイトが立ち上がり、さらにインターネットを介してモノの売り買いが始まりアマゾン(Amazon)が創業。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなど新たなビジネスリーダーが登場しました。

一時、アップルを追われたスティーブ・ジョブズは『スター・ウォーズ』の生みの親ジョージ・ルーカスの声掛けを受けてピクサーを創業し、1995年にフルCG 作品『トイ・ストーリー』を発表。ハリウッドのみならず世界に大きな衝撃を与えました。『NETFLIX/世界征服の野望』では、この時のオタク達が生み出した若く少々無礼なインターネットが世間一般と融合を果たしたシンボルとして紹介されています。

ビデオレンタルの存在

さて、これとは別の視点でもみてみます。今から40年以上前の1970年代後半、“ビデオレンタル(レンタルビデオ)”というビジネスが誕生しました。当初は個人事業主が数十本のビデオテープを棚に並べるだけの簡素なものでしたが、1985年にブロックバスター(Blockbuster)の創業で、ファミリー層をターゲットにした今も続くビデオレンタルチェーンというビジネスモデルが確立されます。同時期、日本でもTSUTAYAが営業をスタートしました。

シリコンバレーで働いていたマーク・ランドルフとリード・ヘイスティングスはこのビデオレンタル業に注目します。ちょうど映像記録媒体がビデオテープからDVDに移行し始めた時代でした。ふたりはDVDの登場でソフトの販売・郵送などが低コストになると見込み、郵便DVDレンタル会社としてNETFLIXを創業します。1997年のことでした。

創業時にそろえたDVDは3000タイトル。映画・映像業界に縁もなく、郵便制度についても完全に把握しているわけではありませんでした。しかし、この“無知”が幸運と成功を招き入れてくれた、とマーク・ランドルフは語ります。

ネットフリックス共同創業者/初代CEOのマーク・ランドルフ
ネットフリックス共同創業者/初代CEOのマーク・ランドルフ

サブスクリプションの到来

一方で、NETFLIXが当時はまだ発展途上だったインターネットの世界でリサーチを徹底するなど新時代のビジネスのスタートアップに備えていたのもまた事実です。初日だけで想定してた一ヶ月分の収益を上げたNETFLIXはその後、当時売り上げの大半を占めていたセル(販売)とレンタルの併用からマネジメントの混乱を避けるために、レンタル一本に集中する選択をします。

この時に導入したのが“定額制=サブスクリプション”でした。当初は、返却への不信感やカードの翌月払いへの不安があったことを多くの関係者が認めています。しかしこのサブスクリプションは無事機能しました。

さらにNETFLIXは次の一手として、オリジナル作品の限定レンタルをスタートさせます。これが後のオリジナル映画やドラマの製作に繋がっています。

話を戻してドットコム・ブーム(ネットバブル)が崩壊した2000年頃、IT関連企業は軒並み資金繰りに苦しむことになりますが、その一方でネットインフラは大きく発展し、映像配信についての技術開発も進みました。

この技術革新の流れでNETFLIXは業界最大手のブロックバスターと関わっていくことになります。アリと象ほどの差があった両者ですが、ブロックバスターには“延滞料”がネックになっていました。“定額制=サブスクリプション”はこの悪い部分を解消することになり、NETFLIXへのブランドイメージは信用度が高まっていきます。

対してブロックバスターは遅まきながらもオンラインビジネスへと歩を進めることに。先駆者としてはるか先を走っていたのがNETFLIXでした。アリと象ほどあった両者の差がインターネットの存在で、じわじわと縮まっていきます…。

煽情的な邦題(『NETFLIX/世界征服の野望』)が付きましたが、実際の作品は骨太なドキュメンタリーとなっていて、ベンチャー企業のサクセスストーリーとインターネット登場後のアメリカ経済の変遷を見ることができる貴重な資料と言えるでしょう。

ベンチャー企業のアイデア創りから創業、大手企業との対決などのエピソードはリアルな池井戸潤ワールドを見ている気分になります。

NETFLIXは日本製のドラマ『今際の国のアリス』を12月10日に世界190カ国以上で同時配信するなど、コロナ禍でも相変わらず攻めの姿勢を見せ続けています。映画『NETFLIX/世界征服の野望』では、その根源に触れることができます。

文:村松 健太郎(映画文筆家)

NETFLIX世界征服の野望

監督:ショーン・コーセン
原作:ジーナ・キーティング『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』新潮社
出演:マーク・ランドルフ(NETFLIX 元CEO 共同創設者)、ミッチ・ロウ(NETFLIX創業メンバー)、現Redbox会長、ジョン・アンティオコ(元ブロックバスター会長兼CEO)、ニック・シェパード(元ブロックバスターCOO)、シェーン・エバンジェリスト(元ブロックバスター オンライン事業責任者)、ビル・メカニック(映画プロデューサー)、フランク・スミス3世(広告評論家)
公式サイト:https://netflix-seifuku.com/
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