岩崎弥太郎や来年のNHK大河ドラマの主役となる渋沢栄一などと共に明治最初期の実業家として知られる五代友厚の人生を描き、経済力、商業力、国際競争力の強化を目指すという今までになかった視点で幕末から明治維新を描くのが映画『天外者』です。長崎に拠点を築いたイギリスの商人トーマス・グラバーの視点を取り入れているというのもユニークな作りになっています。
黒船襲来により、250年の鎖国時代が終わった動乱の時。長崎の海軍伝習所に将来を嘱望される一人の若者がいました。薩摩藩の五代才助、後の五代友厚です。
五代は、薩摩藩主島津斉彬、島津久光、さらに彼らに取り立てられた大久保利通や西郷隆盛、伝習所を仕切る勝海舟からも認められる才覚を発揮し、土佐の坂本龍馬、岩崎弥太郎、長州藩の伊藤博文と知り合い、友情を深めます。
その一方で、遊女のはると出逢います。文字を学び、広い世界を見たいというはるに、いつか自分が世界を見せてみせると五代は誓います。
しかし、激動の時代の波は五代たちを翻弄、一年の長崎留学を経て薩摩に帰ってきた五代は開国主義であると言うことで、藩内でも命を狙われます。それでも五代は上海に渡り、蒸気船を購入。薩摩藩の軍備を増強させますが、薩摩藩士がイギリス人を殺傷した“生麦事件”が起き、やがて薩英戦争へと繋がります。
圧倒的なイギリスの軍備に翻弄される薩摩藩。五代は捕虜として囚われの身となってしまいます。そんな彼を救ったのは、イギリス人に見受けされたはるでした。
大きな希望を胸に抱き、野心的な発言を繰り返してきた五代ですが、実際には何もできない井の中の蛙だったこと突き付けられます。
心を入れ替えた五代はイギリス商人グラバーの支援を受けて英国留学に向かいます。一方、坂本龍馬と岩崎弥太郎は海援隊を結成し、伊藤博文は倒幕運動に身を投じていきます。
約二年の留学を経て帰国の途に就いた五代の元に、龍馬暗殺の一報が届きます。
亡き友を思い涙を流す五代は、友と誓った世界と互角に渡り合う日本を創り上げることを誓います。そして大政奉還、明治維新が始まります・・・。
まずはなんといっても、三浦春馬の主演作品としては最後の映画作品というだけでも『天外者』は一見の価値があります。三浦春馬は本作で日本で最初の“ビジネスマン”ともいうべき五代友厚の生涯を情熱的に演じきりました。
五代友厚と言えば、朝の連続テレビ小説『あさが来た』でディーン・フジオカが演じて、大きな人気を集めたことが記憶に残っている方もいるのではないでしょうか。一度は明治政府に入ったものの、民間に下った五代は欧米列強に対抗できる国際競争力の強化に注力し、国内で様々な産業の振興や資金集め、大阪商工会議所など組織作りに奔走、世界と渡り合える日本作りに時には私財を投げ売って挑戦を続けます。
共演者に目を移すと、三浦翔平が幕末に大志を抱き新たな日本を目指す坂本龍馬を好演しています。三浦春馬とはプライベートでも親しかったという二人の関係性がそのまま役どころに反映されています。
偶然の巡合わせかもしれませんが、来年のNHK大河ドラマが五代友厚や岩崎弥太郎と共に明治最初期の実業家として知られる渋沢栄一を主人公にした『晴天を衝け』に決まりました。
偶然にも幕末から明治維新という同時代を描く物語となるようです。
文:村松 健太郎(映画文筆家)
作品データ
製作:日本
配給:ギグリーボックス
上映時間:109分
公式サイト: https://tengaramon-movie.com/
©2020「五代友厚」製作委員会