小栗旬と星野源のW主演で大きな話題を呼んだ『罪の声』。その原作者の塩田武士が、最初から大泉洋を主役に当て書きして書き上げたのが2018年の本屋大賞にランクインした『騙し絵の牙』です。崖っぷちの大手出版社を舞台に、騙し騙されの策略と陰謀が展開されていきます。主演はもちろん大泉洋。松岡茉優、佐藤浩市、ほか豪華共演陣を相手に仁義なき大勝負に打って出ます。監督は『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』の吉田大八です。
舞台は大手老舗出版社の薫風社。かねてからの出版不況に加え、創業者一族の社長が急逝し、次期社長の座を巡って権力争いが勃発。社内には不穏な空気が流れていました。
改革派の急先鋒に立つ薫風社専務の東松龍司(佐藤浩市)の指揮により、売り上げの乏しい雑誌は、どれだけ歴史があろうと次々と廃刊・休刊の危機にさらされます。その中には会社の顔でもある「小説薫風」も含まれていました。社内の保守派と大御所作家はマスコミを通じて出版継続のため大きなキャンペーンを画策しますが・・・。
また、カルチャー雑誌の「トリニティ」も例外ではなく、新任の編集長・速水輝(大泉洋)も窮地に立たされていました。しかし、この速水、一見柔和で頼りなく調子がいいだけの男に見えて、その笑顔の裏ではトンデモない牙を秘めている男でした・・・。
大泉洋が”必読の一作”を求めたところから始まったこの企画は『罪の声』の塩田武士が手掛けることになり、出版業界を舞台にしたエンターテインメント作品『騙し絵の牙』に結実しました。
すぐに映像化・映画化を巡って各社が争奪戦を展開することに。主演はもちろん大泉洋。さらに豪華共演陣が次々と決定し、映画『騙し絵の牙』は壮大なエンターテインメント作品となりました。また、文藝春秋が全面協力した老舗出版社「薫風社」の内部や外観のリアリティにも要注目です。
明るく2.5枚目なキャラクターというのが、大泉洋のパブリックイメージかと思います。時には芸人も顔負けの面白トークを展開し、ひたすら陽性の人。過去の主演作品には『探偵はBARにいる』シリーズなど、ハードボイルドな路線もありますが、やはり陽性なイメージは変わりません。
一方で舞台人でもある大泉洋。自身がメンバーとして所属する「TEAM-NACS」の作品では思いのほか強面で、強い(こわい)キャラクターを演じていることが多いです。映画『騙し絵の牙』では、そんな舞台作品で見せてきた大泉洋を見ることができます。今までテレビや映像作品だけで大泉洋を見てきた人は、ちょっと驚くことでしょう。
詳しくはネタバレになってしまうので言えませんが、映画と小説ははっきり言って別物と言っていいでしょう。二転三転する物語の展開とあっと驚くエンディング。主人公の速水という人物のつかみどころのない曲者感は小説のイメージと変わりませんが、諸々の人間関係も含め、映画化に合わせてガラッと変わっています。
『騙し絵の牙』(角川文庫)をすでに読んでいる方もいると思いますが、それはそれとして新鮮な気持ちで映画に挑むのが一番良い姿勢なのではと思います。全く違う作品、それでいて間違いなく『騙し絵の牙』と言える。そんな異色の作りの映画に仕上がっています。
ラストに描かれる現在の日本の出版業界へのメッセージは、強いインパクトを残します(3月26日公開)。
文:村松健太郎(映画文筆家)
作品データ
『騙し絵の牙』
監督:吉田大八
原作:塩田武士
出演:大泉洋 松岡茉優 佐藤浩市 宮沢氷魚 池田エライザ 斎藤工 中村倫也 中野英樹 山本學 佐野史郎 リリー・フランキー 塚本晋也 國村隼 木村佳乃 小林聡美
配給:松竹
制作:日本(2020)
公開日:2021年3月26日
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/
(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会