希少本ビジネスの世界はアメリカ社会そのもの『ブックセラーズ』D.W.ヤング監督が語る

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本を探し、本を売り、本を愛するブックセラーにスポットをあてたドキュメンタリー作品『ブックセラーズ』が公開される。世界最大規模のNYブックフェアから始まり、個性豊かなブックセラーたちのインタビューだけでなく、さまざまな希少本のコレクションやオークション風景などで構成され、NYにおける希少本ビジネスの歴史や現状がわかる作品だ。

ビル・ゲイツが史上最高額2,800万ドル(約28億4千万円)で落札した「レオナルド・ダ・ヴィンチのレスター手稿」やそのオークション風景、『グレート・ギャツビー』のカバーがついた初版本、エドガー・アラン・ポーの『タマレーン』初版本、『若草物語』のオルコットが偽名で書いたパルプ小説、宝石が施された本、人間の皮膚で作られた本などが多数紹介されるのも見どころとなっている。

M&A OnlineではD.W.ヤング監督にオンライン取材を行い、NYにおける希少本ビジネスの今後などを聞いた。

――ブックセラーたちのドキュメンタリー作品を撮ろうと思ったきっかけからお聞かせください。

7年くらい前のことになりますが、プロデューサーのダン・ウェクスラーが希少本についてのドキュメンタリー作品を撮らないかと言ってきました。彼自身が希少本のブックセラーだったのです。私も叔父と叔母が本のディーラーをしていたので、その企画に興味を感じました。妻のジュディス・ミズラキーも賛成し、製作に加わってくれるというのも大きかったですね。ただ、当時、他の作品に関わっていたので、実際に撮影を始めたのは、それから4年くらい経ってからのことでした。

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――アメリカの方にとって希少本は身近なものなのでしょうか。

ほとんどの人は馴染みがないと思います。だからこそ、興味を持ってほしかったのです。また一方で本好きの人は本に対する思いが深いので、希少本のドキュメンタリー作品を作ったら強い興味を持ってくれるのではないかと考えました。

――ドキュメンタリー作品は脚本のあるフィクションと違い、企画通りに取材が進むとは限りません。本作はどの辺りで構成が見えてきたのでしょうか。

ダンがブックセラーですから、彼の存在は大きな指針でした。そのうえで実際にブックフェアに行ったことでコネクションができ、取材を進めるうちに方向性が見えてきました。

自分はあれもこれもとテーマを広げて映画を作るのは好きではありません。これまでも何かにフォーカスした作品を撮ってきました。撮ろうと思えば素材は無限大にありますが、作品の最後に出てくるブックフェアに行ったとき、自分が納得するだけの素材が集まったと思えたので、そこで取材を終えることにしました。それ以上取材していたらまとめきれなくなっていたに違いありません。終わりが見えてほっとしました。

ブックイベントの様子
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――女性ブックセラーの少なさや苦労について触れていますが、このことは業界の現状を語る上で外せないと企画段階から予定していたそうですね。

これまで希少本ビジネスの世界は男性優位でした。それはアメリカ社会そのものです。しかし取材を通じて知り合った女性の方々はそんな社会の偏見に負けることなく、前向きに取り組んでいる。業界の現状を描きつつ、女性ブックセラーのがんばる姿を作品の中に取り入れたいと思いました。

――インターネットがブックセラー業界にも大きな影響を与えているのも伝わってきました。

インターネットの活用に対する意識はブックセラーたちの間でも、熟年世代と若い世代に大きな違いがあります。

熟年ブックセラーのみなさんは成功している方が多く、インターネットをうまく活用できる立場にあるので、昔を懐かしみながらもインターネットによって販路が広がったと感じています。

若い人はインターネットがすでにある世界に生きているので、チャンスが増えたというのではなく、そこにあるものをどう活用したらいいかという考え方をしています。

インターネットによって希少本の販路は広がりましたが、普通の古本屋さんは消えつつあります。しかし、インターネットがなかった頃にはもう戻れません。今後はインターネットを使うことを基本に考えなくてはいけませんが、雑然とした本屋さんに行って自分の好きな本を探す楽しみが失われつつあるのが残念です。そういう意味ではブックフェアは気軽に立ち寄れる機会として、とてもいいものだと思います。

――日本の観客に向けてひとことお願いします。

ブックセラーの方から日本のみなさんは本を大切にすると聞いているので、日本で公開されることをうれしく思います。ぜひ映画館に足をお運びください。

取材・文:堀木 三紀(映画ライター)

<プロフィール>

DWヤング監督

D・W・ヤング監督
これまでサウス・バイ・サウスウエストやバンクーバー国際映画祭、メリーランド映画祭やプロビンスタウン国際映画祭、サラソタ映画祭など世界各地の映画祭で上映された作品を発表。主な作品に『A HOLE IN A FENCE』と『THE HAPPY HOUSE』や、2016年大統領選挙の夜に撮影された『 A FAVOR FOR JERRY』など。

『ブックセラーズ』
原題:THE BOOKSELLERS
監督:D.W.ヤング
製作総指揮&ナレーション:パーカー・ポージー
字幕翻訳:齋藤敦子
配給・宣伝:ムヴィオラ、ミモザフィルムズ
アメリカ/2019年/99分
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4月23日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
公式サイト:http://moviola.jp/booksellers/

堀木 三紀 (ほりき・みき)

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)


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