映画『再生巨流』は、2005年に出版された楡周平の同名小説を2011年にWOWOWがドラマ化。大企業のリコール隠しをテーマに物流業界の中で苦戦を強いられる男たちが、発想の転換を武器に生き残りを懸けた戦いへ挑む骨太の経済ドラマだ。
5年前にスバル運輸へ入社した吉野(渡部篤郎)は発案した企画を次々とヒットさせ、社内で高い評価を受けていた。重要顧客である法人の始業時間に荷物を届ける新企画「エクスプレス便」も社長の時任(中村育二)から高評価を受けるが、吉野とウマが合わない本部長・三瀬(陣内孝則)により、吉野は新設の新規事業開発部へ異動。1年で10億を売り上げよという無理難題を押しつけられる。
新事業のヒントを探していた吉野はある日、自社に設置されている自動販売機の在庫管理が通信で管理され、無駄な在庫が削減されていると知る。在庫過多のコピー用紙のため自社の倉庫が圧迫されていると知っていた吉野は、コピー端末に設置したカウンターで用紙の消費量を測定し、不足した分の用紙だけ届けるシステムを考案。文具通販シェア第5位の「バディ」へ、業界1位の「プロンプト」のシェアを奪おうと提携を持ちかける。
しかし本部長の三瀬は、配送センターの準備費用がスバル運輸の資本金の2分の1にあたる60億円に達することを理由に、この案を却下。また時を同じくして、運輸業界1位である極東通運の営業本部長・近藤(松重豊)はプロンプトと提携。提携の強化を理由に、プロンプトへバディとの吸収合併を持ちかける。近藤は東和物産時代の吉野の上司であり、徹底的に衝突した間柄であり、吉野を追って運送業界へ入っていた。
近藤の差し金によりバディの動きは止まり、社内の賛同も得られない四面楚歌に陥った吉野は、助言を求めスバル運輸創設者である曾根崎(長門裕之)の元を訪れるのだった・・・。
スバル運輸の社会人野球チームのエースである蓬莱(中村蒼)は、試合中に右ヒジを故障。蓬莱はプロ野球のドラフトに名が上がるほどのピッチャーだったが、妻と生まれてくる子どものため野球の道を断念。セースルドライバーとしての再出発を決意する。
野球で培った持ち前の根性を発揮し、早々に営業所の売上1位を達成した蓬莱。社内でもトップの成績を収め、本社で表彰を受けるほど頭角を現していた。吉野と知り合ってからは、地元の電気店を活用した配送システムを提案し、短期間に85店舗との交渉をまとめる手腕を発揮。吉野の部署へ異動後は、配送システムの管理責任者となる躍進を見せる。
野球一筋で生きてきた蓬莱だったが、大きな挫折にもくじけず、目の前の可能性を追求した結果、会社を救う大事業を成功させた。セパ3球団を渡り歩いた引退後にアパホテルのチーフマネージャーまで上り詰めた川本良平のように、第二の人生で花開かせるスポーツ選手は多い。情熱をもって取り組む姿勢こそが成功の秘訣であると、蓬莱の姿から勇気をもらえる人は多いだろう。
以下、ネタバレを含みます
吉野を目の敵にし、徹底的に邪魔をし続ける本部長・三瀬。三瀬の反発を受けながらも、吉野は懸命に課題をクリアし事業の実現へ歩みを進めていく。しかし吉野に恨みをもつ近藤が仕掛けた価格競争に、資本力の弱いスバル運輸とバディは疲弊し、事業からの撤退を余儀なくされてしまう。
意気消沈する吉野の前に姿を見せた三瀬は、吉野へひとつの封筒を手渡す。その中身は近藤が極東通運に隠れて行った不正の証拠。これにより近藤は失脚し、スバル運輸は九死に一生を得ることとなった。
社長の時任へ報告に訪れた吉野へ、時任は「三瀬が吉野を育てさせて欲しいと申し出た」と明かした。これまで吉野へ辛く当たっていた三瀬の態度や行動は、すべて吉野がスバル運輸を背負える人材に成長すると見込んでの行動。三瀬もまた若き日に、創設者である曾根崎から叩き上げられた経験の持ち主だった。
近年では、会社への忠誠心や愛社精神といった概念はすっかり鳴りを潜めてしまっている。一定の経験を武器に、報酬のよい会社へ転職するキャリア形成が勧められる時代ではあるが、一ケ所に腰を据えてこそ見える事もあるだろう。長く続く会社の伝統は、覚悟を持って長く取り組む人々によって築かれていることを忘れてはならない。
文:M&A Online編集部
<作品データ>
再生巨流
2011年/日本/1時間48分