2020年9月に放送されたTBS系列ドラマ『半沢直樹』(第二部)では、国会議員ならではのカネの動かし方が話題となった。悪徳国会議員がその地位を利用して銀行から多額の融資を受け、子飼いの地元企業へ転貸。地元企業が安く広い土地を購入すると、そこへ国会議員の権力で空港を誘致し地価を何倍にも引き上げ、差額で莫大な利益を得るというものだった。
まさに国の力を使っての錬金術。美味い汁を吸うために違法な献金をしたがる人は後を絶たない。本作でも政治家に取り入りたい企業と企業を利用したい政治家の思惑がせめぎ合い続ける。
ドキュメントタッチを残しながらも、エンタメ要素もある点も半沢作品と同じ。登場人物の中に善人の姿はなく、ことごとく悪人として登場する。すべては「金(カネ)と権力」のために動くダム建設プロジェクト。職業倫理を全うするかに見えた財部は退職金代わりの賄賂に屈し、正義の徒として不正を糾弾していた神谷もあっさりとカネに屈する。
唯一最後まで正義を貫いた古垣は、出来の悪い腹違いの弟に刺されるという救いの無い最後。悪人による悪人のための世界が作られる様に、不快感を覚える人もいるだろう。
それでも、悪人を演じる俳優たちの存在感がすばらしい。冷徹な表情を貫く仲代達矢が物語をけん引し、後半は三國連太郎の圧倒的なエネルギーで嵐を巻き起こす。終盤に登場する大滝秀治からは、権力者が持つ冷酷さにゾクッとする。なかでも宇野重吉の存在感が抜群だ。歯の抜けたコミカルな表情の影に見え隠れする、戦後を生きた男の強さに惹きつけられるだろう。『半沢直樹』で政権与党の箕部幹事長を演じた柄本明は、この作品から演技のヒントを得たのではないかと思わせる。
それにしても骨太の社会派ドラマには、昭和を生きた名優たちがよく似合う。
文:M&A Online編集部
<作品データ>
金環蝕
1975年・日本・155分