自動車工場を舞台にニッポンを風刺 映画『ガン・ホー』
日米労働者の対立と友情を描いたコメディ映画『ガン・ホー』は86年に製作。当時のアメリカといえば、長い不況を抜け出し、レバレッジド・バイアウト(LBO)によるM&A旋風が巻き起こっていた。
直流か交流か。現在の電気の原点を決めることになった「電流戦争」は、天才発明家トーマス・エジソンとカリスマ実業家ジョージ・ウェスティングハウスによって繰り広げられた。そんな歴史の一大トピックを巨匠マーティン・スコセッシが製作総指揮を執り、映画化したのが『エジソンズ・ゲーム』である。
エジソンを演じるのは『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』で実在の科学者チューリングに扮し、 アカデミー賞にノミネートされたベネディクト・カンバーバッチ。勝つためなら手段を選ばぬ狂気の発明王を演じ、歴史的偉人エジソンのイメージを 180 度覆す。ウェスティングハウスは『ノクターナル・アニマルズ』などでアカデミー賞に 2 度ノミネートされ、『シェイプ・オブ・ウォーター』でも強烈なインパクトを残したマイケル・シャノンが演じている。
ストーリーもさることながら製作過程のトラブルに至るまで、M&Aの要素が詰まった作品だ。
「エジソンズ・ゲーム(原題:The Current War)」は2017年にトロント国際映画祭で披露された後、全米公開を予定していたが、公開延期を余儀なくされた。それはなぜか。製作したワインスタイン・カンパニー(TWC)の共同創業者であるハーヴェイ・ワインスタインにセクハラ疑惑が発覚し、同社は破産に追い込まれたのである。
2018年、TWCは米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の申請手続きを通じて投資会社のランタン・キャピタル・パートナーズに買収され、本作は新たに設立した101 Studiosによって約20ヶ月ぶりに全米公開された。
実はこの買収劇をきっかけに、米国ではM&A契約に「ワインスタイン条項」が盛り込まれる動きが出ている。これは、売却企業に対して獲得した売却額の一部を一定期間保管することを義務付け、セクハラなどの労働問題が売却後に発生した場合に保管していた金額を買収企業に返還するというもの。法的な担保を確約する条項である。
TWCを巡るトラブルは、本作にとって“吉”となった。当初トロント映画祭で披露された本編は、ワインスタインの強い圧力により、製作陣にとって不本意な内容だったという。それを製作総指揮であるマーティン・スコセッシ監督は完成版と認めず、製作陣による再編集を支援したのである。
アルフォンソ・ゴメス=レホン監督らは、超多忙な俳優陣を集め、1 日限りの再撮影を敢行。元のバージョンから 10 分を削り、新たに5つものシーンを追加した渾身のディレクターズ・カットを完成させた。
舞台は19世紀アメリカ。産業も人々の暮らしもガスや石油から電気へと、新時代を迎えようとしていた。長寿命の白熱電球の開発に成功したエジソンは天才発明家と崇められ、自身のポリシーに反する依頼はたとえ大統領であっても平気で断る男だった。同じ頃、鉄道車両用の空気ブレーキなどの発明で財を成した実業家ウェスティングハウスは、大量の発電機が必要なエジソンの直流方式より、遠くまで電気を送れて安価な交流方式の方が優れていると考えていた。
エジソンのもとで働く若手発明家のテスラ(ニコラス・ホルト)も効率的な交流方式の実用化を提案するが、エジソンに一蹴されてしまう。
ウェスティングハウスは交流式送電の実演会を成功させ、話題をさらう。そのニュースにエジソンは激怒、「交流は危険で人を殺す」とネガティブキャンペーンで世論を誘導していく。
こうして世紀の“電流戦争”が幕を開け、訴訟や駆け引き、裏工作が横行する中、ウェスティングハウスはエジソンと決裂したテスラに近づく。果たしてこのビジネスバトルを制するのはどちらか?
エジソンとウェスティングハウスの熾烈なバトルは1893年のシカゴ万博で決着するのだが、電流戦争を知らなくとも、今の生活を考えればその結果は明らか。しかし、緊張感のある演出で最後までハラハラさせる。クライマックスはシカゴ万博での豪華絢爛なデモンストレーション。夜を明るく照らす電気に人々が歓喜した様子に、電気がもたらす未来への希望が伝わってくる。
映画では触れていないが、ウェスティングハウス・エレクトリック社はその後、1994年に電力事業を売却。のちに東芝が買収した商業用原子力部門は98年に英国核燃料会社(BNFL)へ売却している。
奇しくも先日、エジソンが設立したエジソン・エレクトリック社を前身とするゼネラル・エレクトリック社(GE)が、祖業である電気照明事業を売却する*と公表した。GE誕生の経緯も描かれる本作で、エジソンのレガシーを振り返ってみてはどうだろうか。
*ウォール・ストリート・ジャーナルによると、売却額は2億5000万ドル(約260億円)程度となる見込み。
文:堀木 三紀/編集:M&A Online編集部
<作品データ>
『エジソンズ・ゲーム』
監督:アルフォンソ・ゴメス=レホン
製作総指揮:マーティン・スコセッシ
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、マイケル・シャノン、トム・ホランド、ニコラス・ホルト
原題:The Current War: Director’s Cut
2019年/アメリカ/108分/スコープ/5.1ch/字幕翻訳:松浦美奈/字幕監修:岩尾徹
後援:一般社団法人 電気学会
配給:KADOKAWA
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2020年6月19日(金)全国ロードショー
公式サイト:https://edisons-game.jp/
日米労働者の対立と友情を描いたコメディ映画『ガン・ホー』は86年に製作。当時のアメリカといえば、長い不況を抜け出し、レバレッジド・バイアウト(LBO)によるM&A旋風が巻き起こっていた。
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