『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』が2020年8月14日全国公開となる。本作は1930年代の世界恐慌下で隠蔽されたソ連(当時)の悲惨な実態を暴き出した英国人記者の闘いを描く政治サスペンス。アンドレア・チャルーパが描いた脚本をアグニェシュカ・ホランド監督が惚れ込み映画化した。
主人公の英国人記者を演じるのは、グレタ・ガーウィグ監督作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』などで活躍するジェームズ・ノートン。ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局で働く記者エイダに『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』のヴァネッサ・カービー。エイダの上司でピューリッツァー賞記者ウォルター・デュランティにバイプレイヤーとして定評のあるピーター・サースガードが扮した。
1933年、元英国首相ロイド・ジョージの外交顧問で、ヒトラーに直接取材した経験を持つ若き英国人記者ガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)には、是が非でも解き明かしたい疑問があった。世界恐慌の嵐が吹き荒れるなか、なぜスターリンが統治するソビエト連邦だけが繁栄しているのか。莫大な国家予算の資金源はどこにあるのか。

謎を解くために単身モスクワを訪れたジョーンズは、外国人記者を監視する当局の目をかいくぐり、すべての答えが隠されているウクライナ行きの汽車に乗り込む。凍てつくウクライナの地を踏んだジョーンズが目の当たりにしたのは、想像を絶する飢餓に苦しむ人々の姿だった。

ガレスに用意されたモスクワのホテルはシャンデリアで明るく照らされ、ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局長デュランティの自宅では退廃的なパーティーが繰り広げられていた。共産党幹部は豪華な料理を食べながら、必要なものは党がすべて用意してくれると語る。モスクワが享受する豊かさが、光輝く鮮やかさで映し出される。
その一方、ウクライナのシーンはモノトーンで、モスクワとの対比が際立った。話し声さえ聞こえない不気味な静寂がスクリーンいっぱいに広がる。筆者が6月にホランド監督にインタビューした際、「飢饉は他の殺戮と違い、人は孤立して沈黙のうちに亡くなっていく。声を挙げることもできず、ただ消えていってしまう。それが飢饉という悪魔で、作品の核心です」と監督は語っていた。
吹きすさぶ風の音に隠れてウクライナに忍び寄る悪魔。この大飢饉をホロドモールと呼ぶ。スターリン体制が外貨獲得のために農業収穫物を強制的に徴発したことなどにより、1932年から1933年にかけて人工的に引き起こされた。現在では多くの国がジェノサイドの1つと承認している。

ガレスはウクライナで見たことを記事に書き、飢饉を止めようとした。しかし、アメリカとソ連の外交樹立を優先したデュランティは飢饉を否定し、ガレスの声は届かなかった。その後のガレスの運命はエンドロールに記されるが、事実の究明はときに命懸けであることにあらためて気づかされる。
情報統制によって国家は都合の悪い事実を隠蔽し、国民は知る権利を侵害されてしまう。これは過去の歴史にとどまらず、現代でも起こり得ることだ。私たちはフェイクニュースやプロパガンダに囲まれている。
国家も個人も自身の利益を最優先し、ともすれば他者への敬意や関心を失いかねない。このような「分断」の時代にこそ、ガレスのように勇気と使命感を持って隠された事実を暴くジャーナリストが必要なのだという、ホランド監督の強い思いが作品から伝わってくる。

文:堀木 三紀(映画ライター)
『赤い闇 スタ―リンの冷たい大地で』
監督:アグニェシュカ・ホランド
出演:ジェームズ・ノートン、ヴァネッサ・カービー、ピーター・サースガード
2019年/ポーランド、イギリス、ウクライナ/原題:Mr.Jones/ PG12/118分
©FILM PRODUKCJA – PARKHURST – KINOROB – JONES BOY FILM – KRAKOW FESTIVAL OFFICE – STUDIO PRODUKCYJNE ORKA – KINO ŚWIAT – SILESIA FILM INSTITUTE IN KATOWICE
配給:ハピネット
2020年8月14日(金)より新宿武蔵野館/YEBISU GARDEN CINEMAにて全国公開
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