『黒の試走車(テストカー)』

映画「黒の試走車(テストカー)」は、昭和の流行作家として数多くの作品を残した梶山季之の小説を原作とする「黒シリーズ」の第一作。高度経済成長期を舞台にした弱小自動車メーカー間のスパイ合戦を描く。社運を懸け極秘開発されたスポーツカーの情報を巡る情報戦は、やがて人の生死をも左右する策謀へと展開する。

あらすじ

タイガー自動車の新作スポーツカー「パイオニア・スポーツ」がテスト走行中に炎上事故を起こし、翌日業界紙に報道された。テスト走行の存在を知っていたのは社内の役員クラスのみだったため、産業スパイ部門である企画一課課長・小野田(高松英郎)は、極秘裏にマスコミに情報を漏らした張本人を探りはじめる。

ライバル会社のヤマト自動車がスポーツカーの販売を計画していることを知った小野田は、新車パイオニアの情報がヤマトに漏れていることを確信する。そこで小野田はパイオニアが一般大衆車であるかのような偽データを流出させ、ヤマトの目論見をはずそうとするが、ヤマトの企画部長・馬渡(菅井一郎)に見抜かれ失敗してしまう。

スパイの正体もわからず、盗まれたパイオニアのデザインそっくりの車がヤマトから発売されると知った小野田は、情報流出の防止から価格勝負へと方針変更。部下の朝日奈(田宮二郎)の恋人・昌子(叶順子)に、馬渡からヤマトの価格設定を盗み出すよう依頼する。

昌子は馬渡と一夜を共にし、隙を見て価格設定の情報を奪取。その情報が決め手となり、タイガーはヤマトとの価格勝負で勝利を収める。しかし馬渡が仕掛ける販売妨害策により、売れ行き好調に思えたパイオニアはさらなる苦境に立たされていく。

実在した自動車メーカーはどこ

映画が公開された昭和60年代は円高による輸入車の販売価格の下落に加えて、株式や不動産の値上がりで富裕層が急増。ポルシェ、ベンツ、ルノーといった外国車が、裕福なカーマニアから支持されていた時代だ。パイオニアのような国産スポーツカーへの挑戦は、当時日本の自動車メーカーからするとチャレンジングなものだった。

本作に登場するタイガー自動車は、かつて国内に実在した「プリンス自動車工業」がモデルとなっている。プリンス自動車は海外の著名なデザイナーを起用し、パイオニアのモデルとなった「スカイライン」を販売。しかし売れ行きは振るわず、1966年に日産自動車に吸収合併された。

スカイライン GT-R発祥の地の記念碑
スカイライン GT-R発祥の地の記念碑(東京都武蔵村山市) ©M&A Online

この合併によりスカイラインや、後に発売された主力製品の「グロリア」は日産自動車で販売を継続*。現在は日産販売店の「日産プリンス」として、その社名が受け継がれている。*2004年に製造中止

プリンスの丘公園
日産自動車武蔵村山工場(東京都武蔵村山市、旧プリンス自動車のメーン工場)の跡地に整備された公園 ©M&A Online

行き過ぎた忠誠心

「人生すなわち会社」というような時代。会社の利益のためなら暴力も辞さず、出世のために恋人をキーマンのベッドへ送り込む。会社への行き過ぎた忠誠心は、帰属意識が薄れた現代人の目には異様に映るだろう。

一方で、会社から終身雇用を保証され、会社の成長が自身の利益に直結した高度経済成長期という時代。企業戦士として強い忠誠心と労働意欲をもった小野田や朝日奈の姿に、当時の日本が大きく成長した理由の一端が垣間見える。

強烈な脇役の存在感 

本作は田宮二郎や高松英郎、叶順子といった当時の大スターが共演し、真に迫る演技で観客を引き込む。一方で、スパイ活動を依頼された看護師、盗撮した会話内容を読み取る読唇術者、発売直後のパイオニアで事故を起こした市議会議員など、脇役の存在感も主役を食うほど強烈。キャストから伝わる熱が、黒シリーズが本作を含み11作続いたのもうなずける。

小説も味わい深い。絶版ではあるが、電子書籍で入手可能だ。興味があれば是非一読を。

文:M&A Online編集部

<作品データ>
黒の試走車(テストカー)
1962年/日本/94分

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