売却か再建かー映画『おもてなし』から学ぶM&Aの神髄とは

※この記事は公開から1年以上経っています。
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老舗旅館を営む母子と、買収した旅館の再建を任された台湾実業家との交流を描く『おもてなし』。琵琶湖畔の風景や京都の美しい町並みを背景に、立場や習慣を違える人々が“おもてなし”の答えを模索する。

本作は関西の観光促進と地域活性化(地方創生)を目的に、日本と台湾が共同で制作した。国際的にも注目を集めた作品であり、香港国際映画祭や北米最大級のアジア映画祭である「LA Pacific Film Festival」で上映され、高い評価を受けている。


あらすじ

赤字の老舗旅館「明月館」を切り盛りする母・美津子(余貴美子)と娘・梨花(田中麗奈)。ふたりの前に、若き台湾人・ジャッキー(ワン・ポーチェ)が現れる。

ジャッキーの父・チャールズ(ヤン・リエ)は台湾で成功を収めた実業家であり、美津子の亡き夫が残した明月館を買収していた。息子であるジャッキーは旅館の再建のために派遣されていたが、再建の必要性に意義を感じないジャッキーは、役員の黄(マイケル・タオ)と共謀し、父に秘密で売却を前提とした旅館の改装に着手。旅館の継続を目指す梨花と衝突を繰り返す。

ジャッキーの来日には元恋人・尚子(藤井美菜)との再会という、もうひとつの目的があった。再会を喜ぶのもつかの間、尚子から結婚が決まったことを知らされたジャッキー。よりを戻すという願いを果たせなかったジャッキーは、尚子へ明月館での結婚式を無料で提供することを提案する。

この提案は尚子への贈り物であると同時に、明月館の付加価値を高めるための実績作りも兼ねていた。ジャッキーの目的は旅館の売却にあったが、結婚式対応の準備として”おもてなし”を学ぶうち、ジャッキーは徐々にこの生活と旅館に愛着を抱き始める。

しかし黄はすでに売却の手続きを進めており、契約の日は目前まで迫っていた。

尚子から旅館の売却話を聞いた梨花はジャッキーに真意を問いただすが、同席していたチャールズは、突如知らされた売却話にショックを受け、話し合いの場で倒れてしまう。

ガンの病状が悪化していたチャールズは、見舞いに来たジャッキーに売却を受け入れたと告げる。しかしジャッキーは、父や梨花たちと過ごした明月館での1ヶ月を振り返り、売却を進めてよいのかと揺れていた。

そして契約が行われる当日、会議の場でジャッキーは明月館に対する想いを語り出す……。

旅館買収のビジョンはあるのか

チャールズは旧友が残した旅館を廃業から救うため、明月館を買収した。しかし会社にとっては、この買収にメリットは無く、黄はジャッキーに「売却に失敗すればあまりに損失が大きい」とぼやいている。

M&Aは技術の獲得や人材確保、市場への参入など自社の発展を目的に行われる企業戦略の一環だ。しかしチャールズが行った明月館の買収には発展に向けたビジョンは見えず、私的な感情ばかりが目立つ。そのためビジネスパートナーの黄や息子のジャッキーといった、社内の有力者から反感を買ってしまった。

会社の動向は、多くの人間の人生を左右する。たとえ創業者であったとしても、会社はオーナーの私物として扱えないのは当然のことである。

チャールズの感情的な買収は、企業買収の舞台で生まれた美談にしてはいけないという反面教師として学ぶべき点もある。

おもてなしの裏にある企業努力

明月館復興のため、おもてなしの心を学ぶ梨花、ジャッキー、旅館手伝いのボーハオ(ヤオ・チュエンヤオ)の3人。木村(木村多江)によるおもてなし教室での指導だけでなく、接客の現場であるデパートの視察、さらには引っ越し業者の作業随伴を行い、さまざまな形のおもてなしを経験。その結果、尚子の結婚式では見事なおもてなしを披露し、式は大成功を収めた。

普段我々が当たり前のように受けているサービスも、数多の物語が築き上げた結果であることをあらためて感じさせられる。

文:M&A Online編集部

<作品データ>
『おもてなし』
2018年 / 日本・台湾合作 / 96分
出演:田中麗奈、ワン・ポーチエ、余 貴美子、ヤン・リエ、ヤオ・チィエンヤオ、藤井美菜、ルー・シュエフォン、マイケル・タオ、青木崇高、眞島秀和、木村多江、香川京子
©松竹撮影所/天大影業股份

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