日本企業が外国企業を買収するアウトバウンドの大型M&Aは活発になっている。だが、PMI(Post Merger Integration、買収後の統合プロセス)がうまくいかず、思うようなリターンを上げられないケースも多い。PMIのカギを握るのは、買収先企業の経営陣との関係だ。国内外の企業のM&Aに関わる人事デューデリジェンスや組織・人事面での統合を中心としたコンサルティングに豊富な実績を持つマーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング部門 プリンシパルで、この4月1日に部門代表に就任した島田圭子氏が語るM&Aを成功に導く人事施策のカギを短期集中連載する。

マネジメントを任せるなら
ガバナンスをしっかり利かせる

――日本企業のM&Aが、なかなか上手くいかない主因として、買収した海外企業の経営が現地経営陣にお任せになってしまっているという指摘が以前から多くなされていますが、日本企業のガバナンスの実態をどう見ていますか。
 日本企業の場合、現地に送るマネジメント人材の不足というのが共通の課題としてあります。海外企業のマネジメントを経験しないまま、いきなり例えば1万人規模の米国大手企業を経営することはできません。しかし、東証1部上場クラスであっても、日本企業の中では、外国企業を経営できる人材は非常に限られており、買収した企業となるとなおさら難度が上がる為、マネジメントは主に留任させた現地の経営陣に任せざるを得なくなります。マネジメントを任せる場合、ガバナンスをしっかり利かせなければ、PMIは非常に難しいことになってしまいます。

――日本企業はガバナンスを利かせられているのでしょうか。
 ガバナンスの第一歩として、親会社が意思決定に参加すべき事項を明確にして、マネジメント側に伝える必要があるのですが、そこで、つまずく日本企業も多いのが現状です。ガバナンスについて伝えるタイミングを逸したまま、クロージング(取引終了)からDay 1(統合当日)を迎えてしまい、「とりあえず取締役会や経営会議をそのままにしてスタートさせて、半年くらい様子を見ながらガバナンスを考えていこう」となってしまうケースも目立ちます。

 ところが、日本側の本社から派遣された人が、オブザーバーとして経営会議に同席すると、そこでは、親会社で決定すべきだと考えていた事項まで、どんどん現地経営陣の権限で意思決定が進められている。それを目の当たりにしたオブザーバーが、権限もないのに発言したり、後から決定事項を覆す動きに出たりします。定款や権限規定は変わっておらず、従来からのルールに従って意思決定を行っている現地経営陣の側からすれば、これは日本側がルールに反しているということになります。その不満が積もれば、嫌気が差してせっかくリテインした経営陣が辞めてしまうということになりかねません。

 また、対象会社の現行の意思決定プロセスの精査をせず、体系的なガバナンスを構築しないまま、たまたま参加した会議で目にしたことをもとに場当たり的に動いても、全体観を欠き、意思決定プロセスについて全体の整合性がとれなくなるおそれも生じます。

――外国企業に比べて、特に日本企業として注意すべきガバナンスの失敗にはどんなものがありますか。
 ある程度、英語を使える日本人であっても言語の壁はあります。取締役会前には、承認事項のアジェンダとともに現地語の分厚い資料が用意されるのですが、渡されるのは通常で5営業日前くらい、時には前日、場合によっては当日資料持ち込みというケースもあります。そうなると派遣された取締役が1人で読み込んで、適切に判断をくだすのはほぼ無理です。日本企業の中には、とりあえず否決をしておいて、次回に判断し直そうという対応を取る会社もあるようですが、きちんとした根拠もなく反対すれば、取締役会メンバーの間にフラストレーションがたまり、「自分たちは何のためにいるのだ」となって、辞職するということにもなりかねないので、これはやってはいけないことの一つです。読み込むための十分な時間を確保できるように早めに資料を入手できるようにしなければなりません。その上で、日本にいる本社スタッフも動員して資料を精査し、事前に疑問点を確認し、現地経営陣が追求する迅速な意思決定を支える状況を整える姿勢も示す必要があるでしょう。(続きを読む

2回目:実際にガバナンスを機能させるために、意思決定プロセスを把握せよを読む

3回目:現経営陣の留任に成功したら、後継育成計画に着手するを読む(完)

取材・編集:M&A Online編集部