手元のキャッシュが増える「運転資本がマイナスの状態」とは

メルカリ提供

貸借対照表を見る前に、先ほどの事業系統図をもう一度見てほしい。メルカリは、一度商品が購入されると、購入者が支払った金額がまずメルカリに入金される。決済方法は主にコンビニ払いかクレジットカード払いとなっており、コンビニ払いの場合は購入日から2日後までの決済、クレジットカードの場合は即時決済となっている。いずれの方法によっても購入から数日でメルカリに入金されることとなっている。

メルカリとしては、これを受け取った時点で、10%は自分の資金となり、残り90%を出品者に支払うこととなる。メルカリから出品者へ売上金が支払われるまでは、以下のようなプロセスを踏むようになっている。

    取引成立→商品発送→購入者受取評価→出品者振込申請→売上金振込

 出品者が振込申請を行ってから実際に振込が行われるまでのスケジュールは、下表のとおりだ。

     メルカリHPから

例えば、出品してからすぐに取引が成立しその日に商品を発送、翌日に購入者が受け取って受取評価を完了した場合は、最短で5日後、最長で11日後に売上金が振り込まれることとなる。ただ、これは取引発送から最もスムーズにいった場合で、実際には発送までの時間、発送期間、受取評価が行われるまでの時間を考慮すると、最速でも1週間以上はかかることが多い。

ということは、メルカリとしては、購入者からお金をもらうまでの期間のほうが、出品者にお金を支払うまでの期間よりも短いのでは?ということが想像できる。ここで貸借対照表をみてみよう。 

「新規上場のための有価証券報告書」から

 貸借対照表上、購入者からの取引代金未回収額が未収入金として、出品者に対する取引代金の未払分が未払金として計上されていると考えられる。ここで、30年3月末時点の未収入金が2,504百万円である一方で、未払金は25,401百万円となっている。PLの売上高は取引金額の10%であるため、未収入金の分母を売上高の10倍、未払金の分母を売上高の9倍として回転期間を計算すると、未収入金の回転期間は3.5日、未払金の回転期間は39.5日となる(簡便的に、売上高は全てフリマアプリ事業によるものと仮定)。

つまり、取引が発生してから購入者から数日で入金されるのに、出品者に対して支払うのは1か月後くらいでよいということになる。会計の世界では、このような状態を「運転資本がマイナスの状態」という。この状態が続くと、売上金で仕入代金を賄うことができるため通常必要となる仕入代金支払から売上金入金までのつなぎ資金が不要となるだけでなく、仕入代金の支払いまでキャッシュが手元に残るのだ。

しかも、メルカリは、出品者が売上金額をメルカリでの購入代金に充てることができるような仕組みを構築している。これにより、出品者が取引完了から振込申請を行うのを遅れさせ、メルカリにとっては支払いまでの期間が長期化されるため、手元のキャッシュがどんどん増えるようになっているのだ。

だから、そうして生まれたキャッシュをどんどん広告宣伝等に使っても営業がまわるようになっており、利益こそ赤字だが、営業CFはちゃんと増えるようになっている。顧客から預かった預金を運用することで利益を生み出す、銀行のビジネスと似ている。メルカリは、顧客からお金が引き出されるまでの時間が長いから、そのお金を使って運用することができるのだ。