シャルレMBO株主代表訴訟では、第一審において「MBO完遂尽力義務」や「手続き的公正配慮義務」という独自の基準が定立されましたが、二審では事実上否定されています。
その代わりに会社法(第330条、株式会社と役員等との関係)と民法(第644条、受任者の注意義務)に根拠のある「善管注意義務」にもとづく責任が認定されました。
今後MBOにおいて不正な株価操作が行われた場合には、基本的に「善管注意義務違反があるかどうか」という枠組みの中で判断されるものと考えられます。
本件において「損害」の内容としては、「不正に関する調査などに要した費用」のみが認定されており、会社の信用毀損についての損害は認められませんでした。
一般的に役員がMBOにおいて不正行為を行ったらニュースなどで大きく取り上げられ、会社の評判が著しく低下して株価が大きく下がることが予想されます。株主にすれば多大な損害を受けたといえるでしょう。ただしこういった損害については法的に補填されない可能性が高いといえます。
直接不正行為に関与しなかった社外取締役の責任も認められなかった点にも注目すべきです。社外取締役の責任追及はハードルが高くなるでしょう。
本件は、元役員らに対する善管注意義務違反と、会社に対する損害賠償責任を認めた判例として重要な意義を持ち、その後の改正MBO指針にも影響を与えました。
文:福谷陽子(法律ライター)/編集:M&A Online編集部
慣習に倣い、文中の判例は全て和暦で表記しております
法律ライター 元弁護士
京都大学法学部卒業
10年の実務経験を積んだ後ライターに転身し、現在は各種法律記事を中心に執筆業を行っている。弁護士時代は中小企業法務や一般個人の民事事件を中心に取り扱っており、その経験を活かし法律ライターとして活躍中。