3月期決算上場企業の今年の株主総会集中日は6月27日。この日だけで約670社に及び、全体の3割を占める。投資ファンドから突き付けられた社長の解任議案について、別の大株主が同調する意向を示し、その採決が焦点になっているのが製紙業界5位の北越コーポレーションだ。
北越コーポの株主総会は27日、本社を置く新潟県長岡市のホテルで行われる。全11議案のうち、株主提案は7議案。香港投資ファンドのオアシス・マネジメントが北越コーポの岸本晢夫社長の代表取締役解任、社外取締役4人解任など5議案、大王海運(愛媛県四国中央市)が取締役5人選任など2議案を提案している。
オアシスは約20%、大王海運は約21%(間接保有を含む)の北越コーポ株をそれぞれ保有し、両者合わせた保有比率は40%を超える。
オアシスは社長在任が16年に及ぶ岸本氏について、唯一の代表取締役として君臨し、後継者を育成せずにワンマン経営支配を維持してきた結果、取締役会は弱体化し長期的な課題を見誤り、成長の展望を株主に提示できていないことなどを解任理由に挙げている。
会社側は指名・報酬委員会の答申に基づき、解任に反対を表明した。
北越コーポは会社提案の一つとして、大王海運を念頭に導入した買収防衛策について、株式の買い増しなど一定の条件が満たされた場合、取締役会の決議だけで発動できるようにする議案を諮るが、これに大王海運が反発を強めている。
第2位株主のオアシスの解任議案に対し、筆頭株主の大王海運が同調を早々に決めたことから、すでに40%を超える“賛成票”が得られた形。近年影響力を増している米国の議決権行使助言会社の大手2社は反対を推奨している。賛成多数に届くのかどうかは、他の株主の動向次第となっている。
ただ、事はもっと複雑だ。大王海運の存在が製紙業界の再編とも絡んでさまざまな憶測を呼んでいる。
大王海運は北越コーポの筆頭株主(約21%保有)であると同時に、製紙4位の大王製紙の大株主(5%超保有)。さらに北越コーポは大王製紙株を約25%保有する筆頭株主でもある。
大王海運はその名の通り、大王製紙の創業家出身で会長、副社長を務めた井川俊高氏が実質的なオーナーとされる。当の大王製紙では2010年代初めに創業家の元会長・井川意高氏によるカジノ賭博をめぐる背任事件で経営陣から創業家が一掃された。この際、北越コーポが創業家から大王製紙株を買い取った経緯がある。
つまり、大王海運は大王製紙の筆頭株主になった北越コーポの筆頭株主でもあるというややこしい関係にある。大王海運の影響力の下で、仮に北越コーポと大王製紙の経営統合が実現すれば、創業家の復権も夢ではなくなる。
気が早いが、実際、大王海運がオアシスが保有する約20%の北越コーポの株式を買い取ることになれば、業界再編が一気に現実味を帯びる。
北越コーポは、持ち分適用関連適用会社としながら規模で勝る大王製紙をコントロールできず、むしろ路線対立を深めるばかりだったので、業界内で犬猿の仲とも言われてきた。ところが今年5月、両社は生産技術や原料調達、物流面などに関する業務提携を発表した。
その背中を押したとみられるのが他でもない大王海運。“敵の敵は味方”というわけだ。
北越コーポはかつての北越製紙時代、業界トップの王子製紙(現王子ホールディングス)による敵対的買収を阻止した過去を持つ。日本のM&A史に刻まれる2006年の「北越製紙対王子製紙事件」だ。
それまでも小ぶりの敵対的買収案件はあったが、国内大手企業同士では初めてとあって、経済界を揺るがすニュースとなった。北越は三菱商事などを引受先とする新株発行を強行するなどして、王子に対抗した。大王製紙も安定株主として北越をバックアップした。
この事件の2年後の2008年、三菱商事出身の岸本氏が社長に昇格し、今日にいたる。紀州製紙との経営統合などを経て、2018年に現在の北越コーポレーションに社名を変更した。
文:M&A Online
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