M&Aには様々な形態がありますが、それぞれの形態でどのような決議が必要となるかを確認します。まず、事業譲渡などに関して株主総会の決議が必要となる場合、その決議は特別決議によるものとされます。また、合併、会社分割、株式交換、株式移転に関する規定により株主総会の決議を要する場合にも特別決議によります。M&Aは一般に事業や組織の運営に重大な影響を与えるので厳格な特別決議が要求されるという訳です。
その一方で、対価の額が存続会社の純資産額の20%以下となる「簡易合併」の場合には、存続会社において株主総会そのものが不要とされます。これは存続会社にとって影響がさほど大きくない場合には手続を簡素化させ、柔軟な再編を可能とする趣旨です。
また、当事会社の一方が他方の議決権の90%以上を保有している「略式合併」の場合、子会社側において株主総会の承認が不要となります。子会社の意思決定は実質的に支配されており、あえて子会社側で株主総会の承認を求める必要がないため、手続を省略したものといえます。
同様の制度は合併以外のM&A形態にも認められており「簡易組織再編」「略式組織再編」として整理されています。以上のような決議要件は、いずれも権利保護と手続の柔軟性とのバランスを調整したものといえます。M&Aを考える際には、こうした決議要件の観点からも検討が必要であることは言うまでもありません。
文:北川ワタル(公認会計士・税理士)
経歴:2001年、公認会計士2次試験合格後、監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)、太陽監査法人(現太陽有限責任監査法人)にて金融商品取引法監査、会社法監査に従事。上場企業の監査の他、リファーラル業務、IFRSアドバイザリー、IPO(株式公開)支援、学校法人監査、デューデリジェンス、金融機関監査等を経験。マネージャー及び主査として各フィールドワークを指揮するとともに、顧客セミナー、内部研修等の講師 、ニュースレター、書籍等の執筆にも従事した。2012年、株式会社ダーチャコンセプトを設立し独立。2013年、経営革新等支援機関認定、税理士登録。スタートアップの支援からグループ会社の連結納税、国際税務アドバイザリーまで財務会計・税務を中心とした幅広いサービスを提供。
学歴:武蔵野美術大学造形学部通信教育課程中退、同志社大学法学部政治学科中退、大阪府立天王寺高等学校卒業(高44期)
出版物:『重要項目ピックアップ 固定資産の会計・税務完全ガイド』税務経理協会(分担執筆)、『図解 最新 税金のしくみと手続きがわかる事典』三修社(監修)、『最新 アパート・マンション・民泊 経営をめぐる法律と税務』三修社(監修)など