スタートアップ支援だけでは乗り越えられない 岸田改造内閣に山積する経済課題

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第2次岸田文雄改造内閣が発足

第2次岸田文雄改造内閣が発足し、新型コロナウイルスやウクライナ危機によるさまざまな経済産業政策課題の解決を求める声が強まっている。新たに就任した西村康稔経済産業相は自身が主宰する研究会でM&Aの環境整備を主張した経緯もあるだけに、足元の課題である事業再編などの活性化策も求められそうだ。

M&Aの「のれん償却」撤廃を主張した西村経産相

西村経産相は旧通商産業省の官僚出身で、旧経済企画庁への出向や石川県庁の商工課長なども経験。2019年9月に発足した第4次安倍晋三再改造内閣で経済再生担当相として初入閣し、2020年12月には私的な「企業組織の変革に関する研究会」を立ち上げた。

計9回の会合を経て2021年8月に取りまとめた報告書では、「企業のM&Aのディスインセンティブとなる『のれんの規則的償却』を撤廃すべき」と提言。日本独自の規則的償却が大企業のM&Aによるスタートアップ買収を妨げる一因になっていると指摘し、減損のみを行う国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準とそろえるよう主張した。

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首相からのミッションは「事業再編の支援」

西村経産相は8月10日夜の就任記者会見でも、岸田首相から課せられた自身のミッションとして「コロナ後の成長に向けた事業再構築、生産性の向上、事業再編の支援」を挙げ、「大臣の職責をしっかり果たしていきたい」と言及した。

岸田首相はスタートアップの起業促進を重点投資分野に据えた「新しい資本主義」を看板政策とするが、経済界ではスタートアップの出口戦略となるM&Aを大幅に増やすための手立てを求める意見が根強い。「新しい資本主義」の実行計画工程表には、M&Aを目的とした公募増資のルールを2023年夏までに見直すことが明記されている。

概算要求の主要施策に「事業承継・M&A促進」

経産省の産業構造審議会も、2023年度予算概算要求の骨格となる「経済産業政策の重点」で、中小企業・小規模事業者の事業承継やM&Aの促進などを主要施策に設定。政府系機関の中小企業基盤整備機構(中小機構)が実施している中小企業生産性革命推進事業(事業承継・引継ぎ補助金など)の推進も掲げた。

中小機構のサーチファンド出資も加速

中小機構は概算要求期限の8月末を前に、中小企業経営力強化支援出資事業を通したサーチファンド型ファンド(サーチファンド)への出資も加速させている。8月1日には、国内最大級の「ジャパン・サーチファンド・プラットフォーム投資事業有限責任組合」に10億円を出資することを決めた。

さらに、同10日には国内のサーチファンドの草分けとして知られる山口キャピタル(山口県下関市)が運営する「地域未来共創Searchファンド投資事業有限責任組合」にも同額の出資を決定。サーチファンドは中小企業などが抱える事業承継問題を解決する役割が期待されることから、中小機構は新たな出資先の選定に意欲を示している。

年内に経済対策の2次補正予算を計上

岸田首相は内閣改造と自民党役員人事を終えた後の記者会見で、コロナ禍の難局を乗り越えた経済の再生に最優先で取り組むと表明したが、新型コロナによる経営破たんは全国で累計4,000件超に上る(東京商工リサーチ調べ)。2022年7月まで18カ月連続で100件を超えている中、スタートアップの起業促進だけで危機を乗り越えられないのは明らかだ。

政府は年内に新たな経済対策などを盛り込んだ2022年度第2次補正予算を計上するとみられ、年末には2023年度の予算編成と税制改正も控える。売上高の減少や原材料費の高騰などに苦しむ既存企業をどう救うのか、岸田首相が称する「政策断行内閣」の真価が問われる。

文:M&A Online編集部

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8月10日に発足した第2次岸田文雄改造内閣が、不穏な船出となった。旧統一協会と何らかの関係があった閣僚が次々と明るみに出たのもさることながら、萩生田光一政務調査会長(政調会長)と高市早苗経済安全保障相が自らの人事を不満だと広言したのである。