なぜM&Aでは「売り」案件が少ないのか?

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写真はイメージです。

事業承継や経営戦略の一環として、M&Aが積極的に活用されるようになってきました。M&Aも売買契約の一つなので、需要と供給の関係は重要です。つまり、M&Aにおける売手企業、買手企業のバランスが問題になるのです。

近年増えてきた中小企業のM&Aを見てみると、需要が供給を上回る売手市場となっています。なぜ、M&Aでは、買手候補企業に対して売り案件が少ない、需要と供給のアンバランスな状態なのでしょう。その原因について見ていきます。

M&Aに関心のある経営者にとって、なぜ売り案件が少ないのか、どうしてM&Aは売手市場なのか疑問に思うことでしょう。このようなM&Aにおける需給のアンバランスにはいろいろな要因が考えられます。

売却の意思が薄い中小企業経営者

中小企業経営者の多くが、事業を承継させたいという漠然とした意思を持っているようです。しかし、最近まで第三者に売却してまで承継をするという明確な意思を持った経営者は、全体の1割程度といったデータもあります。

このように、売却してまで承継、存続させたいと思わない経営者が多いのには、わけがあります。これは過去にM&Aによる会社の売却や事業の譲渡、あるいは他の企業を買収するといった経験のある経営者が少ないことが主な要因です。これは別の見方をすれば、我が国におけるM&A自体が未成熟であるともいえるでしょう。

こうしたM&Aの経験が少ないことやM&A自体の未成熟さから、中小企業の経営者は、頭ではなんとなく理解はしていても、具体的行動に出ることができないでいるのです。

中小企業経営者が持つM&Aに対するイメージ

M&Aによる売却について中小企業経営者はどのようなイメージを持っていて、それがどのように影響しているのでしょうか。公的機関が実施した調査によると、中小企業経営者は、M&Aによる売却に対して、以下のようなイメージを持っているようです。

事業承継上有効な手段
中小企業経営者の70%以上が、事業承継の手段としてM&Aの有効性を認識している。

②身売りのイメージ
かつては乗っ取り、敵対的買収などM&Aに対する悪いイメージが多かったが、現在では、こうしたネガティブなイメージを持つ中小企業経営者は半減している。ただ、一部には身売りのイメージも根強く残っている。

事業承継について信頼できる相談相手がいない
事業承継について誰に相談してよいのかわからないという経営者は多いもの。M&Aに関する情報がまだ少ないということで、これはM&A市場の未成熟さなども影響している。

他にも、市場の未成熟さが原因と思われるネガティブイメージとして、多額の費用がかかりそう、手続きが複雑で煩わしそう、買手候補企業の情報が入手しづらいなどがあります。

ずいぶん中小企業経営者のM&Aに対するイメージは変わってきましたが、全体としてはまだ、ネガティブ感は否めません。

このようなネガティブイメージの先行、M&A市場の未成熟さなどから、中小企業経営者は、M&Aによる売却に二の足を踏んでいると思われます。

買手希望の企業が多いのはなぜ?

一方で売手企業に比べ、買手候補となる企業が多いのはなぜか。そもそも、売手企業と買手企業とでは、M&Aに対する目的、位置づけに違いがあります。

買手企業にとってM&Aによる買収は、経営戦略の一環という位置づけです。既存事業とのシナジー効果、あるいは自社にない特殊な技術、ノウハウといった経営資源を容易に取得し、同業他社に対し競争優位となれるため、積極的なM&Aを行っているのです。

そのため、黒字企業だけでなく、自社に必要な経営資源があれば、赤字企業でもM&Aの対象となります。

このように、売手企業、買手企業のM&Aに対するイメージや位置付けの違いなどから、我が国のM&Aは売手市場というアンバランスになっているのです。

ただ、こうした状況も新型コロナ収束後のポストコロナ時代、大きく変わってくることが予想されます。

文:特定行政書士 萩原 洋

M&A Online編集部

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