非上場会社の企業価値評価に有効な「類似(上場)会社比較法」とは

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「類似(上場)会社比較法」とは、M&Aにおける売買対象会社の財務データを、類似する上場会社の財務データと比較評価することで、当該対象会社の企業価値の指標となる株価を算定するものです。「マルチプル法」、あるいは「株価倍率法」とも呼ばれています。

高い価値評価法の一つ「類似(上場)会社比較法」

上場会社の株価と関連性のある財務データとしては、利益、フリーキャッシュフロー、純資産などのデータ以外にも、収益性や事業規模など他の財務データが併用される場合も少なくありません。

上場会社の財務データや株式市場における公開された株価により、売買対象会社の株価や企業評価を算定するものですから、類似するかどうかの判断基準に誤りがなければ、一般的には高い評価方法といえるでしょう。

類似(上場)会社比較法上の手続き

類似(上場)会社比較法上の手続きの流れを簡単に示すと以下のようになります。

類似(上場)会社の選定
    ↓
利用する倍率の算出
   ↓
売買対象会社の株価算定

手続きについて詳しく見ていきましょう。

⚫︎類似(上場)会社の選定

売買対象会社ともっとも類似した上場会社を選定することから始まります。

⚫︎利用する倍率の算出

売買対象会社に適用するための、類似(上場)会社の倍率を計算します。最も利用される倍率としては、EBITDA(イービットディーエー、イービットダーと呼ぶ)倍率です。EBITDA倍率は以下のように導き出します。

EBITDA倍率=事業価値・企業価値÷EBITDA

ここで、事業価値・企業価値は、類似上場会社として選定した会社の時価総額に純有利子負債(有利子負債から現金・預金を控除した残額)、および少数株主持分を加えて企業価値を算出し、そこから非事業性資産を控除して事業価値を算出します。

一方、EBITDAは、税引き前利益に支払利息と非資金性費用である減価償却費を加えたものです。

なお、EBITDAがM&Aなどにおいて最も多用される財務データである理由は、営業キャッシュフローから簡単に算出できるためです。

例えば、類似(上場)会社の事業価値、あるいは企業価値を100億円とし、当該会社の直近の財務データによるEBITDAが10億円であるならば、EBITDA倍率は10倍となります。

一方で、売買対象会社のEBITDAが1億円であれば、1億円×10で10億円となり、株価算定対象会社の事業価値・企業価値である10億円が簡単に算出できます。

ただし、注意しなければならないのは、ある事業年度におけるEBITDAの数値がマイナスになってしまった場合には、倍率の算出ができないということです。

売買対象会社の株価算定

このようにして算出した売買対象会社の事業価値・企業価値に、当該対象会社の非事業性資産を加算した事業価値・企業価値から純有利子負債を控除します。こうして、売買対象会社の株価 (株主時価総額)が算定できます。

EBITDA倍率による類似(上場)会社比較法などが、M&Aの株価算定において多用されている理由としては、信頼できる財務データがあれば手続きが簡単で、時間やコストを削減できるからです。

M&Aの現場では、売手企業・買手企業双方が対峙し交渉を繰り返しながら、そのプロセスを進めていくわけです。

そのため、DCF法のように理論的ではあるけれども、算出するまでのプロセスが複雑で、時間やコスト、そして専門的な知識などが要求される手法は、非上場会社の場合敬遠されがちです。こうした手法に比べれば、簡単明瞭な類似(上場)会社比較法のほうが、双方企業の理解や納得も得やすくなります。

このようなことから、そのほとんどが非上場である中小企業のM&Aでは、この類似(上場)会社比較法が多く利用されているのです。

文:特定行政書士 萩原 洋

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