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アントIPO延期の原因はジャック・マーの「失言」ではなかった

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アントを「用なし」にした中国政府の「切り札」

しかし、そのスマホ決済は「用なし」になった。理由は中国中央銀行デジタル通貨の「デジタル人民元」の登場だ。デジタル人民元の投入には銀行口座を持たない人たちにも金融サービスを提供することで、「跳ねっ返り」のスマホ決済事業者から当局の規制・管理が徹底している銀行へマネーを取り戻す狙いがある。

中国人民銀行は10月にデジタル人民元の普及促進のため、抽選で選ばれた5万人の深圳市民に対して1人当り200人民元(約3100円)、総額で1000万人民元(約1億5800万円)のデジタル人民元を交付した。だが、中国国民が使い慣れたスマホ決済からデジタル人民元へ乗り換えてくれるかどうかは分からない。

おそらく中国中央銀行や既成の銀行よりも、フィンテックの最先端を走るアントの方がサービスのきめ細かさや使い勝手の良さでは上だろう。さらには政府にカネの流れが筒抜けになるデジタル人民元を使うことへの抵抗感もある。

中国政府はデジタル人民元を、先進国並みに自由化した経済で国民を統制する「切り札」とみている。だから「金融当局によるアントIPOの強制延期」により、中国では「もはやスマホ決済に未来がない」ことをアピールする必要があったのではないか。そうだとすれば、一連の不可解な動きにも合点がいく。

デジタル人民元の普及にまっしぐらの金融当局にとって、強力なライバルになりうるスマホ決済は「用なし」どころか排除すべき「禍根」なのだ。ジャック・マー率いるアント・グループを潰そうとしているのは、習近平国家主席の気まぐれなどではなく、デジタル人民元という「国策通貨」なのだ。

中国をフィンテック大国に育て上げたスマホ決済もデジタル人民元の普及には「邪魔」でしかない(アリペイホームページより)

文:M&A Online編集部

M&A Online編集部

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