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異常に価値が高い謎の会社 モービルアイ(Mobileye)

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※画像はイメージです

なんでこんな高評価になったのか

このような企業価値が生まれた源泉はなんでしょうか。さらに言うならば、モービルアイのようなテックギークスタートアップの成功条件とは、どのようなものでしょうか。 

「うちの会社のテクノロジーは世界一素晴らしい。」と自信を持つ技術者は世の中にごまんといます。そしてそうした技術者が立ち上げるスタートアップも、たくさんあります。しかし、モービルアイのような大成功を収めるのはほんの一握りです。

以下は、あくまで筆者の私見ですが、スタートアップの評価に知悉したVCの方の意見や見方と大きく外れていないと思います。

テックギークスタートアップの4つの成功条件

1.シンプルで力強く、明確な提供価値

モービルアイのようなテックギークスタートアップは、エンドユーザー(モービルアイであれば自動車の運転者)から直接対価を得るわけではありません。しかし、彼らの提供するサービスは明確にTier1であるOEMが実現すべき価値に貢献しています。「ぶつからない車」が、社会でどれほど価値があるかは言うまでもないでしょう。このように「顧客の顧客」の課題に明確にフォーカスしているかどうかは非常に重要です。

2.圧倒的に「本物」の技術

これも言うまでもないでしょう。モービルアイの自動運転支援技術が精度の低い、または経済合理性が合わないほどコストがかかるものであれば、OEMに導入される可能性は全くないでしょう。では本物の技術、とはなにか。この定義は非常に難しいところですが、筆者はビジネスの観点から見た場合、既存技術の100倍以上の圧倒的改善が見られる技術(100Xテクノロジー)であれば、社会を変えるような強烈なインパクトを持つ潜在力があるところと考えています。

例えば次のようなものです。

・通信速度が100倍になる。
・消費電力が100分の1になる。
・エネルギー効率が100倍になる。
・環境負荷が100分の1になる。
・なんらかの確率(歩留まりなど)が100%(に限りなく近く)なる。
・コストが100分の1になる。
・費用対効果が100倍になる。

本当は1,000倍といいたいところですが、そうすると50年に1度のイノベーション、というようなレベル感になってしまうので、数十年に一度レベルの技術革新と捉えた場合、100倍というのがひとつの目安ではないかと思います。

3.マッチョなビジネス力

テックギークスタートアップでありがちなのは「良いテクノロジーは勝手に売れるし、価値を認めてもらえる。」と考えてしまうことです・・・が、これは残念ながら間違いです。例えばあるテックスタートアップが、素晴らしい技術について特許を取ったとします。しかし、この特許を確信的に侵害する外国の良からぬライバルがあることが判明したとしましょう。

この場合、特許権を主張して相手を特許侵害で警告する、訴える、もしくは適切なロイヤリティーを要求するなど、企業として明確なファイティングポーズをとる必要があります。ファイティングポーズを取る覚悟がないのに特許を持っていても本質的に意味はないのです。これは複雑な駆け引きを含む高度なビジネスマターで、タフな交渉力を含むビジネスセンスが必要です。また技術に特化してその価値を最大限マネタイズするには、優れたビジネスモデル構築が必要です。

モービルアイの技術の核心は、画像処理半導体「EyeQ」を核とする高度自立運転システムソリューションです。素晴らしい技術ですが、世界のメガOEMとのタフな交渉を誤れば、ソリューションを切り売りするか、もしくは十分とは言えない価格で買収され、「はい。ありがとう。ご苦労さん。あとはこっちでやるからね。」と言われて終了です。残念ながら実際そのような事例は少なくありません。 

モービルアイは、そのようながっかりビジネスはしません。EyeQの知財をしっかりと固めて、そこからサブスクリプション型のロイヤリティ収益を取りつつ、EyeQのシステムから取得される自動運転ビックデータの権利は完全に自社で掌握しています。そして、この自動運転ビックデータという宝の山をMaaSのビジネスにつなげていこうとしています。単なる技術屋集団ではなく、まさにビジネスモンスターです。

4.スタートアップとしての「持たざる強さ・後発の強さ」

モービルアイの成功を見ていると、なぜ年間何千億円もの研究開発費を毎年投じている世界のメガOEMと、いちスタートアップに過ぎないモービルアイが伍して戦えるのかという疑問がわいてきます。

メガOEMは開発から生産までのフルバリューチェーンを内製化しており、その維持とメンテナンスに膨大な継続投資が必要です。また、過去に販売した自動車のサポート、メンテなどのため、古い技術もある程度温存せざるを得ないでしょう。いわゆるレガシーコストの負担が大きいといえます。

テックギークスタートアップは、このようなレガシーコストを負わず、最新のテクノロジーを最適な構成で活用することが可能です。これはモービルアイに限らず、スタートアップの一般的な強みといえるかも知れません。

・ ・ ・ ・ ・

さて、テックギークスタートアップの4つの成功条件から、モービルアイが異常に価値が高い会社となった理由がおわかりいただけたかと思います。

この連載コラムのテーマは、スタートアップが直面する「受託の罠」と「死の谷」について、CJM(キャッシュジャーニーマップ)というフレームワークを用いて考察することでした。

テックギークスタートアップは、受託の罠をどのようにすり抜け、さらに死の谷をどうクリアしたらよいのでしょうか。詳しくは次回にお話したいと思います。(次回に続く)

文:西澤 龍(IGNiTE PARTNERS株式会社 代表取締役/パートナー)

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西澤 龍 (にしざわ・りゅう)

IGNiTE CAPITAL PARTNERS株式会社 (イグナイトキャピタルパートナーズ株式会社)代表取締役/パートナー

投資ファンド運営会社において、不動産投資ファンド運営業務等を経て、GMDコーポレートファイナンス(現KPMG FAS)に参画。 M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、JAFCO事業投資本部にて、マネジメントバイアウト(MBO)投資業務に従事。投資案件発掘活動、買収・売却や、投資先の株式公開支援に携わる。そののち、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS 現在IBMに統合)に参画し、事業ポートフォリオ戦略立案、ベンチャー設立支援等、コーポレートファイナンス領域を中心にプロジェクトに参画。2013年にIGNiTE設立。ファイナンシャルアドバイザリー業務に加え、自己資金によるベンチャー投資を推進。

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業(マクロ経済政策、国際経済論)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員 CMA®、日本ファイナンス学会会員

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