バリューチェーン分析とは

対象企業のケイパビリティを深掘りする

バリューチェーン分析は文字通り一連のバリューチェーン(価値連鎖)の業務ごとに価値が加わっていき、対象企業のケイパビリティを評価、検証するフレームワークである。

この時に気をつけることは、対象企業が属する業界、業種において、どのバリューチェーンがKFS(Key Factor for Success:事業の重要成功要因)となるのかについて絞り込んでおくことだ。そうしないとモグラ叩き同然に、全ての業務における能力について、「○」「×」をつけていく総花的な評価に終始してしまうことになる。これは、重要な機能もそうでない機能も全てを十把一絡げに扱ってしまうという点で、絶対に避けるべきアプローチだ。

こちらも3C分析同様に、大塚家具を例に挙げてみよう。

大塚家具のバリューチェーンはおおよそ、次の通りである。「(新規)事業開発」→「業態開発」→「MD(マーチャンダイジング)」→「商品仕入」→「(自社商品の)企画」→「(自社商品の)生産管理」→「出退店」→「マーケティング/プロモーション」→「販売」→「カスタマーサポート」。このうち、大塚家具のケイパビリティをまとめてみる。

家具業界のKFSで言えば、先述した「高付加価値家具」事業においては「商品仕入」「マーケティング/プロモーション」となる。要は富裕層など、特定の消費者層に支持される(そのライフスタイルに合致する)デザイン性の高い家具ブランドを仕入れ、品揃え出来るか、ということと、ターゲットとなる特定の消費者層に認知してもらえるか、ということが肝となる。

一方で、低価格高コスパ家具のKFSは「(自社商品の)企画」「生産管理」となる。どれだけ高品質の商品をどれだけ安く実現できるか、が事業成功の要点になる。以上を踏まえた大塚家具のバリューチェーン分析(簡易的)は以下のようになる。

表2:大塚家具のバリューチェーン分析

業務評価コメント
(新規)事業開発×直近収益貢献しうる新規事業を開発できていない
業態開発×同様に、過去の大塚家具の成長を実現してきた「中級家具」小売の業態開発に成功したものの、次の収益を生む業態を開発できていない
MD(マーチャンダイジング)×中級家具を売る上でのMD能力はあったものの、現状の消費者ニーズを汲み取る商品品揃えは実現できていない
商品仕入△ 中級家具においては豊富な品揃えを実現。一方で、高付加価値家具、低価格高コスパ家具においては、消費者ニーズを満たす商品仕入れを実現できていない
(自社商品の)企画× 消費者ニーズを充足する自社商品企画機能は有していない
(自社商品の)生産管理」×品質の高い自社商品を実現する生産管理機能・能力は有していない
出退店×中級家具においては、過去に収益を上げていた既存店舗立地を確保してきたものの、需要減少に伴う店舗立地の最適配置の見直しはできていない
マーケティング/プロモーション話題作りという点での露出は出来ているものの、今後ターゲット顧客となる層へのアプローチ、集客はできていない
販売中級家具を販売する上での販売力は維持している一方、現状ニーズの高い高付加価値家具、低価格高コスパ家具を販売するノウハウは不足
カスタマーサポート既存顧客を維持する仕組みは有している

以上、筆者作成

かなり概要レベルでの整理にはなるが、以上のように、各バリューチェーンの項目において対象企業の能力を評価、整理することで、今後顧客からの支持を獲得し、売上向上を図る上で、どの機能が強みで、どこに改善余地があるのか、という点について具体的に把握、整理することができる。

組織・人材ケイパビリティマッチング分析

経営課題が明確になったら、それを実行/実現する人員、組織を有しているか、を評価・検証する

最後の「(経営課題に対する)組織・人材ケイパビリティマッチング分析」は、経営課題が明確になった時点で、対象企業にその課題を解決するための人員、組織体制があるか、という評価、検証するためのフレームワークになる。

重要なことはまず先に解決すべき経営課題ありきであるということ。バリューチェーン分析と同様、何が重要で、どのような機能・役割が必要なのか、を洗い出した上で対象企業の人員、組織を評価していくと効果的である。

また、この時も「マーケティングができるマネジメントが必要」といった曖昧な記述ではなく、「SNS、Webマーケティング等デジタルマーケティングの実務」や「低価格・高コスパ家具の自社商品の企画実務と生産委託先工場とのネットワーク」など、課題を解決するために必要な機能・役割について極めて具体的な記述をすることが重要になる。

必要な機能・役割を補うために、人材採用や外部委託などを検討する際にも、具体的な記述をしておくことで失敗のリスクを低減できるし、金融機関の視点で言えば、ここまで具体的に落とし込んだ上で対象企業の経営陣に対して質問していけば、経営陣が経営課題を解決するために補完しなければならない機能・役割を具体的に把握しているか、という点も検証できるだろう。

事業性評価を受ける側はどうするか

金融機関とやるべきことは同じー形式知化、言語化せよ

これまで金融機関として事業性評価を実施する上でのアプローチについて、事例をあげて述べてきた。一方で、事業性評価を受ける側の企業においては、どのような対応が必要になるのか、という点についても触れておきたい。

結論から言えば、金融機関とやるべきことは同じである。つまり、事業性評価に使われる各種フレームワークの切り口で、自社が置かれている経営環境、売上/利益向上を実現する上で対応が必要な経営課題、今後打つべき打ち手、打ち手を実行するために補完が必要な機能・役割(採用人材/外部登用人材の要件)について、きちんと形式知化、言語化しておくことだ。

そうすれば、金融機関のような外部機関との共通言語にもなるし、そもそも社内コミュニケーションのツールとしても使える。何でも単純化すれば良いという訳ではないが、先に述べた3Cなどのフレームワークで自社のことが簡潔に説明できないのであれば、それは経営者または会社自身として整理できていない、要点を掴みきれていない、ということと同義。それでは業績を上げるためのツボを押さえた経営など出来るはずがない。

企業においては、定期的に自社の事業性評価を実施することで、自社の状況、課題を客観的かつ的確に把握、整理することができるので、ぜひ一度実践して見て欲しい。必ずやその効果を実感できることだろう。

文:山田政弘/ジェミニ ストラテジー グループ 代表取締役CEO