では、「官・民」ではなく「学」はこの動きをどう捉えているのか。法政大学大学院政策創造研究科の石山恒貴教授は、越境学習が注目され始めた背景として、新型コロナ禍で激しく変化する環境において、自社における教育・学習だけでは会社も個人も通用しにくくなった点を指摘。また、働き方改革によって兼業・副業(複業)が注目されていること、さらに、人生100年時代の生涯学習機運が高まってきたことも背景にあると指摘している。
そのなかで、個人は自分のなかで「ホーム」と思う組織から「アウェイ」と思う組織へと境界を越えて学び、そのホームとアウェイを「往還」することが越境学習だと捉える。また、その過程では、「わかりあえない」ことを前提に、異質な人とどうやったらわかりあえるかを試行錯誤することが個人の再認識につながるとしている。
その状況を踏まえて、企業と個人双方に求められるのは、越境学習を活用して、外部の知識を獲得し、視点・視野・視座を広げ、企業内の既存事業の常識や当たり前を疑うことだという。
VUCA、越境学習、リカレント教育……といったキーワードを探るとき、M&Aはその格好の場を提供する経営のあり方かもしれない。
ある会社を子会社とする、ある会社の子会社になる、持ち株会社化する、経営統合・合併する、会社分割する、さらに、事業の第三者承継を行うなど、いろいろなM&Aのあり方がある。自分の属する会社の社名が変わるケースもあれば、社名は変わらず、別の組織に属することもある。M&Aによって企業内は異文化の交錯する場となり、その交錯のたびごとに自分の立ち位置を再確認し、呈示することが必要になるはずだ。
そうしたM&Aの対象企業とその個人は、程度の差はあるものの「『ホーム』と思う組織から『アウェイ』と思う組織へと境界を越える」ことが求められる。
昨年12月10日、18日の越境学習に関する人材育成セミナーはオンライン動画として残っているので、一度覗いてみていただきたい。そのとき、たとえば「企業も個人も“反VUCA”な存在ではあり得ない今、まさにM&Aは越境学習の実践場だ」と前向きに捉えて対応できるだろうか。それができる組織と個人こそ、この先々もリカレント教育を積極的に取り組み、VUCA時代を生き抜くことができるだろう。
文:菱田 秀則
東京23区のど真ん中にある港区。ビルの谷間に鎮座するのが愛宕山(あたごやま)。そびえるという表現は似つかわしくないが、正真正銘、東京23区で一番標高が高い山なのだ。
日本電産会長の永守重信氏が理事長を務め、大学、幼稚園、保育園を運営する永守学園と、中学、高校を運営する京都光楠学園が2021年4月1日に合併することになった。