M&Aにも効果的!? コロナ禍で注目される「VUCA」時代の働き方

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「VUCA」という言葉が急速に注目を集めている。「Volatility(変動性・不安定さ)」「Uncertainty(不確実性・不確定さ)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性・不明確さ)」。この4つのキーワードの頭文字を取った造語。現代の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を端的に表現するキーワードとして今日、使われている。

コロナ禍で注目されるVUCAと「越境学習」

ここでいう「現代の経営環境」とは、まさしく新型コロナ禍における経営環境だ。売上も利益も資金計画も、さらには短・中・長期の経営計画もこれまでとは同じようにはいかない状況が続き、その経営環境のなかで「これまでと同じような働き方はできない」と感じる個人も増えてきたようだ。まさに、企業もそこで働く個人も、今は「VUCA」の渦中にいるといってよいだろう。

このような背景を受け、個人も自分自身の働き方を変え、企業も個人の働き方の変化を前向き、積極的に支援する動きが見えてきた。その大きな潮流の1つが「越境学習」である。

越境学習とはひと言でいうと、「個人が所属する組織の枠を越え(“越境”して)学ぶこと」。そのことにより、企業にはイノベーションがもたらされたり、個人は自分自身の価値観を再確認したりする効果が期待されている。さらに、民間企業のみならず官、すなわち国も、企業のイノベーションや個人の内省面の変化をもたらす越境学習の応援に取り組んでいる。

経済産業省も、人材教育関連業界も積極的に対応

具体例をみていこう。まず「官」から。経済産業省は教育関連の実証プロジェクト群の進捗状況や学校・学習塾・個人学習で使える国内・世界のEdTech(Education×Technology)の最新動向を広く情報発信する「未来の教室」というポータルサイトで、越境学習の動向について報告している。昨年12月10日、18日には越境学習に関する人材育成セミナーをオンラインで実施、その内容を広く伝えている。

経済産業省では、越境学習を企業内の階層別教育、営業パーソンや技術者などの職種別教育など従来の教育研修とは趣が異なるものとして、たとえば生涯にわたって教育と就労のサイクルを繰り返す「リカレント教育」の効果ある手法の1つと捉えているようだ。

一方の企業側としては、まず人材教育関連の団体・企業での動きが活発化している。たとえばNPO法人のクロスフィールズでは、『留職』というプログラムで、民間企業の社員を社会課題に取り組む国内外のNPOや企業に派遣するプログラムを提供している。概ね数カ月の短期派遣だが、プログラムの提供開始以降、累計200名以上が参加しているという。

また、株式会社ファーストキャリアは、『リーダーズ・キャリア・サミット–TEX –』 という越境リーダーシップ醸成プログラムを開発し、東日本大震災の被災地である福島県南相馬市と岩手県釜石市で同プログラムの実証を進めてきた。

そのほか、NECマネジメントパートナー株式会社でも『Sense』 というリーダーシップ開発プログラムのなかで越境学習を実践。インドの社会課題の解決に向けて短期で社員を現地派遣し、新事業を立ち上げるなどの成果も生まれている。

越境学習の「越境」は地理的なもの、すなわち、「日本を離れて海外で」に限られているものではない。個人にとっては「今の自分の“リアル”」とは別のリアルに身を置き、自分がVUCAをどう受けとめるかを内省することでもある。その点では、株式会社ニトリホールディングス<9843>では、「組織内越境」という仕組みを設けている。社内の37部署100職種以上で2〜3年に1度は配転し、そのなかで年間50以上のチームを組織し、縦横無尽・自立分散型の組織を生み出していこうという取り組みだ。

「ホーム」と「アウェイ」の往還の重要性を指摘

では、「官・民」ではなく「学」はこの動きをどう捉えているのか。法政大学大学院政策創造研究科の石山恒貴教授は、越境学習が注目され始めた背景として、新型コロナ禍で激しく変化する環境において、自社における教育・学習だけでは会社も個人も通用しにくくなった点を指摘。また、働き方改革によって兼業・副業(複業)が注目されていること、さらに、人生100年時代の生涯学習機運が高まってきたことも背景にあると指摘している。

そのなかで、個人は自分のなかで「ホーム」と思う組織から「アウェイ」と思う組織へと境界を越えて学び、そのホームとアウェイを「往還」することが越境学習だと捉える。また、その過程では、「わかりあえない」ことを前提に、異質な人とどうやったらわかりあえるかを試行錯誤することが個人の再認識につながるとしている。

その状況を踏まえて、企業と個人双方に求められるのは、越境学習を活用して、外部の知識を獲得し、視点・視野・視座を広げ、企業内の既存事業の常識や当たり前を疑うことだという。

M&Aで体験する「もう一人の自分」

VUCA、越境学習、リカレント教育……といったキーワードを探るとき、M&Aはその格好の場を提供する経営のあり方かもしれない。

ある会社を子会社とする、ある会社の子会社になる、持ち株会社化する、経営統合・合併する、会社分割する、さらに、事業の第三者承継を行うなど、いろいろなM&Aのあり方がある。自分の属する会社の社名が変わるケースもあれば、社名は変わらず、別の組織に属することもある。M&Aによって企業内は異文化の交錯する場となり、その交錯のたびごとに自分の立ち位置を再確認し、呈示することが必要になるはずだ。

そうしたM&Aの対象企業とその個人は、程度の差はあるものの「『ホーム』と思う組織から『アウェイ』と思う組織へと境界を越える」ことが求められる。

昨年12月10日、18日の越境学習に関する人材育成セミナーはオンライン動画として残っているので、一度覗いてみていただきたい。そのとき、たとえば「企業も個人も“反VUCA”な存在ではあり得ない今、まさにM&Aは越境学習の実践場だ」と前向きに捉えて対応できるだろうか。それができる組織と個人こそ、この先々もリカレント教育を積極的に取り組み、VUCA時代を生き抜くことができるだろう。

文:菱田 秀則