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本質を見極める|M&Aに効く論語3

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 徳と法の両方が必要

優れた思想家を従え、武力・考え方としても敵を凌駕する必要があった(XiXinXing/iStock)

 ちなみに、春秋戦国時代は、中国思想としても百花繚乱の時代でした。「諸子百家」と呼ばれ、多数の思想家が誕生しました。つまり、この時期に力を持っていた思想家は孔子以外にもいっぱいいたのです。

 簡単にいえば、誰もが力でのし上がれる時代なので、そのバックボーンとして優れた思想家を従えて、武力だけではなく考え方としても敵を凌駕する必要があり、同時にこの間まで敵対していたかもしれない人々までをも納得させなければならなかったのです。

 その中で道徳を重んじる発想の孔子たちは「儒教」(儒家)として知られ、前回紹介したマンガ『キングダム』の主要舞台である秦国では、法家、つまり法で秩序を守る発想を選択ました。法家の思想家では韓非子が有名です。

 徳を重んじて政治をするのか、法を重んじて政治をするのか、といった対立が生まれますが、のちの世では今に続くように、法治国家が世界の主流となったので法家の勝利とも言えます。それでも、儒家が葬られたわけではなく、心の部分として綿々と生き続けているわけです。いまも私たちの法律は、徳を法制度として飲み込んでいる面もあります。

 よくよく考えれば、私たちの生活を考えると、法と徳は対立する思想ではなく共存するものでしょう。

 論語の思想で経営したら破産してしまう、と怯える必要はありませんし、古くさい道徳として無視する必要もありません。徳も法も人々の営みを別の角度から冷静に見抜いた結果、考え出された思想であり、私たちは人としていまもなお、古代中国の思想家が透徹した姿からほとんど変わっていないのです。

 M&Aの現場では、「なにを残し、なにを諦めるか」といった選択を迫られることもあるでしょう。そのとき「仁」を核として考えれば、「このM&Aの目的はなにか」が重視されますし、本質をしっかり見極めて巧言令色ばかりに走らないことが大切ということになります。

※『論語』の漢文、読み下し文は岩波文庫版・金谷治訳注に準拠しています。

 文:舛本哲郎(ライター・行政書士)

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