【M&A判例】アプラス買収訴訟 「価額調整条項」の解釈が争点に

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東京地裁平成20年12月17日判決 アプラス買収訴訟
~株式譲渡価格の調整規定の解釈が問題となった事例~

株式譲渡を実施するとき、契約締結時から譲渡実行時(クロージング)までの間に株式価額が大きく変動する可能性があります。そこで、契約条項に譲渡価格の調整規定が設けられるケースがあります。これを「価額調整条項」といいます。株式価額に大きな変動が生じたら、状況に応じて契約時に定めた譲渡価額を変動後の適正なものに調整するのです。

ただし価額調整条項を設けると、どのような手続きを経てどういった根拠により調整価額を決定するのかが問題となる可能性もあります。

今回ご紹介する裁判例は、信販大手アプラスの買収に際し、優先株式を購入した新生銀行側と売却したUFJ銀行(現三菱UFJ銀行)が株式譲渡価額の調整規定の解釈をめぐり争った事案です。東京地方裁判所がどういった判断を下したのか、根拠も含めてご説明します。

事案の背景

2004(平成16)年9月、新生銀行がアプラスを買収し連結子会社化しました。そして、当時アプラスのメインバンクだったUFJがアプラスの優先株式を300億円で新生銀行に売却しました。その際、アプラスの2004年9月期貸借対照表(BS)に基づき株式譲渡額を修正することで合意しました。

事案の概要

原告であるUFJは被告である新生銀行側との間で、UFJの保有するアプラスの株式を被告らに対し、300億円で譲渡する株式譲渡契約を締結しました。その際、クロージング後に譲渡価額を修正する規定(価格調整条項)が設けられました。調整規定の具体的な内容は以下の通りです。

・アプラスは会計監査人による中間監査を受けて平成16年度中間期BSを提出する
・平成16年度中間期BSは「日本で一般に公正妥当と認められる会計基準」に従い、会計処理原則にのっとって作成されなければならない
・アプラスは平成16年度中間期BSに調整を加え、対象事業に関する個別BSを期日までに提出する
・UFJと新生銀行側は、合意した手続きに従ってBSの内容を確定する
・確定した個別BSの純資産額と基準日の個別BSにおける純資産額を比較して、株式譲渡価額を調整する
・個別BSの内容を確定する際には、「第三者的立場の会計事務所」による意見書にもとづくものとする
・本件のクロージング後、新生銀行側はアプラスが本件契約にもとづく義務を遵守するよう適正に対応する責任を負う

ところがアプラスは期日までに平成16年度中間期BSを提出しませんでした。

その後、期日を過ぎてから中間期BSや個別BSを提出しましたが、その内容は従前に公表されていた中間期BS速報や個別事業に関するBS速報の内容と大きく異なるものでした。

原告(UFJ)の請求

以上の状況を前提に、UFJは以下の2つの請求をしました。

1.本件合意書には確定手続きを経て株式の調整価額を請求できる規定があるが、確定手続きが不能となった場合には確定手続きを経ずに調整価額の請求ができる。本件ではアプラスがBSを適正に提出せず確定手続きが不能となっているので、差額を請求する。

2.アプラスは中間期BSや個別BSを提出しておらず、新生銀行側における債務不履行となっているので損害賠償を請求する。

被告(新生銀行側)の反論と請求

新生銀行側は以下のように反論しました。

1.本件合意において定められる確定手続きは、第三者である会計事務所に仲裁をあおぐ「仲裁鑑定契約」の趣旨である。
2.確定手続きを経ずに調整価額の請求はできないので拒絶する。
3.アプラスは中間期BSと個別BSを提出しており、債務不履行はなく損害賠償義務は発生しない。

争点

本件の主な争点をまとめると、以下の4点となります。

1.会計事務所を仲裁機関とする仲裁鑑定合意が成立しているか
2.確定手続きが不能となっている以上、UFJは確定手続きを経なくても調整額を新生銀行側へ請求できるか
3.アプラスにおいて債務不履行があるか
4.「日本において一般に公正・妥当と認められる会計基準」の意義とは

裁判所の判断

裁判所は、新生銀行側に対し「アプラスと新生銀行側は合意書で定められた期限までにUFJに必要な資料を提出していない」と指摘し、本件調整額の48億8400万円を損害賠償としてUFJに支払うよう命じました(東京地裁平成20年12月17日)。

仲裁鑑定契約は成立していない

本件では「貸借対照表の内容を確定する際に会計事務所の意見にもとづくべき」と規定されており、これが「会計事務所による仲裁鑑定契約」に該当するかが争われました。

裁判所は「貸借対照表(BS)が日本で一般に公正妥当と認められる会計基準に従っているかどうかは、合意書の条項解釈をめぐる問題であり、会計事務所の検討や判断に委ねたものとはいえない」と判断。仲裁鑑定契約であるという被告の主張を退けました。

確定手続きを経ていない以上、調整価額の請求はできない

次に争われたのは、確定手続きが不能となった以上、UFJは確定手続きを経ずに新生銀行側へ調整価額を請求できるか、という点です。

裁判所は「確定手続きが機能しない状況となっていても、確定手続きを経ずに調整差額を請求できるとする合意は成立していない」と判断。UFJによる調整価額の請求を認めませんでした。

確定手続きを行うための義務を果たしておらず債務不履行が認められる

3つ目に、新生銀行側において債務不履行があったかどうかが問題となりました。

裁判所は以下のとおり認定し、新生銀行側の債務不履行を認めました。

・アプラスは契約において定められた期限までに平成16年度中間期BSや個別BSを提出していない
・新生銀行側はアプラスをして本件合意に基づく義務を遵守させるべき責任を負う
・アプラスが期限までに中間期や個別のBSを提出していないのは、新生銀行側における債務不履行責任となる

以上より、新生銀行側に対し債務不履行責任として48億8400万円の損害賠償を命じました。

「日本で一般的に公正・妥当と認められる会計基準」の意義

本件合意書では、平成16年度中間期BSは「日本で一般に公正・妥当と認められる会計基準」に沿って作成されなければならない、と規定されていました。

この表現があいまいで、基準日BSに適用すべき会計基準と異なる基準なのかどうかが不明だったため、意味内容が問題となりました。

裁判所は「純資産を算定する際に会計基準を変更すると適正な評価が難しくなるため、平成16年度中間期BSと基準日BSは同じ会計基準を適用すべき、とするのが合理的な解釈である」と判断しました。

つまり「日本で一般に公正・妥当と認められる会計基準による」という文言があっても、2つのBSに異なる基準をあてはめるべきではなく、同一の基準で判断すべきとしたのです。

以上より、UFJの新生銀行側に対する請求は一部認容となり、損害賠償請求が認められました。

本事案から学ぶこと

本件では「会計事務所の意見書をもとにBSの内容を確定すべき」という合意がありましたが、裁判所では「これをもって仲裁鑑定契約とはいえない」と認定されました。仲裁鑑定契約を締結するならば、その旨合意書ないし契約書に明記しておく必要があったといえるでしょう。

また「確定手続きが不能となれば、当然に差額を請求できる」というUFJの主張も退けられています。合意書では確定手続きが不能となった場合の取り扱いについて「当然に差額を請求できる」という規定がなかったためです。こういった法的効果を求めるのであれば、合意書ないし契約書に明記しておかねばなりません。

しかし、新生銀行側の債務不履行は認定されました。理由は合意内容において「新生銀行側はアプラスをして義務を果たさせるように対応すべき」という責任が明記されていたからです。

以上からわかるのは、「契約書には、法的な効果をわかりやすく明記しておかねばならない」ということです。不明確やあいまいな内容は裁判で主張しても、認められにくくなります。

また、譲渡実行日の会計実態を価格に反映させる「価格調整条項」を設ける際には、譲渡実行日までにクロージング条件を満たさなければなりません。

文:福谷 陽子/編集:M&A Online編集部

慣習に倣い、文中の判例は全て和暦で表記しております

福谷 陽子 (ふくたに・ようこ)

法律ライター 元弁護士

京都大学法学部卒業
10年の実務経験を積んだ後ライターに転身し、現在は各種法律記事を中心に執筆業を行っている。弁護士時代は中小企業法務や一般個人の民事事件を中心に取り扱っており、その経験を活かし法律ライターとして活躍中。


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