バランスシートに役員退職慰労引当金が計上されているかどうか。これによってデューデリジェンスや株価算定の結果が大きく左右されることがあります。役員退職金の支給の有無やその金額は会社の損益にもオーナー社長の課税関係にも重要な影響を与えます。今回はM&Aにおける役員退職金の取扱について確認してみたいと思います。

株式譲渡対価か役員退職金か

上場企業では役員退職慰労引当金の計上やそれに対するタックスプランニングが入念に行われているのが通常ですが、中小企業ではそもそも役員退職金を支給するのか未定というケースも多いでしょう。

オーナー社長が第三者に対して株式を譲渡して勇退することを決めた場合、(A)買い手から譲渡株式の対価100を受け取るか、(B)自社から役員退職金30を受け取り、買い手から譲渡株式の対価70を受け取るかという2つの選択肢が考えられます。

(A)と(B)ではオーナー社長が受け取る現金はともに100となりますが、税務上の取扱には違いが生じます。以下では(1)株式譲渡したオーナー社長にかかる所得税、(2)役員退職金を受け取ったオーナー社長にかかる所得税、(3)役員退職金を支給した会社における法人税という3つの視点から税務上の取扱を確認してみましょう。

(1)株式譲渡したオーナー社長にかかる所得税

非上場株式を譲渡した場合、譲渡益に相当する金額については「一般株式等の譲渡所得等」として所得税が課されます。その際、譲渡所得の金額は下記の算式で算出されます。

・譲渡所得=総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)

株式のオーナーが創業者である場合、算式中の「取得費」は資本金を発行済株式総数で除した金額をもとに算定します。ただし、取得費が不明な場合には譲渡価額の5%相当額を取得費とする特例によることもできます。

譲渡所得は申告分離課税として一律の税率が適用されます。具体的には所得税および復興特別所得税が15.315%、住民税が5%となります。つまり、株式の譲渡益には約20%の税金がかかるということです。