慶応義塾大学が2度目の大学版M&Aに乗り出す。東京歯科大学と2023年4月の合併に向けて協議入りすることで合意した。M&Aは2008年に共立薬科大学を合併して以来。新たに「歯」を加え、既存の「医」「看護医療」「薬」と合わせ、医療系4学部をフルラインで持つのは国内の総合大学として初めてとなる。

東京歯科大と合併協議入り

合併協議は両大学を運営する学校法人で進められる。発表によると、東京歯科大が11月6日に歯学部の統合と法人の合併を申し入れ、慶応大は同26日の評議員会で協議開始を決定した。

東京歯科大との合併が実現すれば、歯学部は慶応大として11番目の学部となる。医歯連携、医理工連携の推進や学内で蓄積した先端技術の歯学への応用などを通じて、学際的な研究・教育を推し進め、健康長寿社会の実現に貢献できるとしている。

慶応大は毎年卒業生の多くを有力企業に送り込むことで知られ、経済界に大きな影響力を持つ。このため、「経済の慶応」のイメージが強いが、もう一つの看板は私学最高峰にある「医」の分野だ。

慶応大といえば、ライバルの早稲田大学が思い浮かぶ。だが、慶応にあって早稲田にないものといえば、ほかでもない医学部だ。

慶応大は医の分野で着々と布石を打ってきた。まず2001年に看護医療学部(湘南藤沢キャンパス、信濃町キャンパス)を開設した。続いて繰り出したのがM&A。2008年に共立薬科大学との合併を実現し、薬学部(芝共立キャンパス)がスタートした。「慶応ブランド」が加わった薬学部はたちまち私大最難関に躍り出た。

慶応大薬学部がある「芝共立キャンパス」(東京・芝公園)

最後の"ピース"を埋める「歯学部」

そして残っていた最後の“ピース”を埋める形となったのが今回の東京歯科大との合併だ。医学部、看護医療学部、薬学部、歯学部の4学部が勢ぞろいすることになる。同じ私学では医療系専門の昭和大学が医学部、歯学部、薬学部、健康医療学部を持つが、こうした一連の医療系学部を総合大学として擁するのは慶応大が国内初となる。

合併相手の東京歯科大は1890(明治23)年に始まり、今年開校130年を迎えた名門。学生数は約1100人(歯学部定員140人×6年次、大学院、短大含む)と小ぶりだが、歯学系大学受験の難易度はトップクラス。卒業生は累計1万6000人近くを数える。都内と千葉県内で2総合病院、歯科医療センターを運営する。

慶応大と合併協議に入る東京歯科大(東京・水道橋)

「慶応」の看板で再出発、名を捨て実を取る

そんな有力校がなぜ合併に動くのか。理由の一つとして考えられるのが歯科医師の供給過剰問題。数が増え過ぎ、歯科医師の収入低下を招く悪循環に陥っており、一部の歯科大や歯学部では定員割れが発生。国として歯学部の定員削減を模索する動きもある。さらに18歳人口の減少が続き、大学経営を取り巻く環境は厳しさが一段と増している。

東京歯科大は勝ち残り策として合併を決断したものとみられる。企業間でも同じだが、経営体力があるうちであれば、合併に際して好条件を引き出しやすく、吸収合併の形を避けられる。永続的な成長に向けて、名を捨て実を取る最適な相手が慶応大だったいえる。

実は東京歯科大の創立者、高山紀齋は慶応義塾に学び、慶応大の本部がある現在の三田キャンパスの近くで前身の高山歯科医学院を開校した。図らずも、そうした点でも両校の相性の良さがうかがえる。

文:M&A  Online編集部