名古屋を本拠として居酒屋「なつかし処昭和食堂」をはじめ飲食店約90店舗を運営する海帆(かいはん)が東京進出ののろしを上げた。飲食業の弥七(東京都港区)から立ち食い焼肉「治郎丸」事業を買収した。東京都内ではこれまで1店舗にとどまっていたが、今回、一気に6店舗(うち5店舗はフランチャイズ店舗)を手中にした。

地元では多様なブランド展開で高い知名度を持つ海帆だが、東京では“無名”に近い。日本最大の激戦地・東京に本格上陸する海帆とは。

新カテゴリー「立ち食い焼肉」を取り込み

海帆は5月31日付で6000万円を投じて「次郎丸」を買収した。対象事業の直近業績は売上高1億6700万円、営業利益910万円。

「治郎丸」は全国的にも珍しい立ち食いスタイルの焼肉店。カウンター席に小さなコンロが置かれ、目の前のショーケースには和牛肉が並び、寿司屋を思わせる。好みの肉を一切れずつオーダーするのが売り物。値段は部位によって一切れ30円から高級なもので300円ほど。客単価は平均3000円程度で、安価なホルモン系を中心に注文すれば1000円ほどで腹ごしらえできる。

店舗は新宿、渋谷、御徒町、秋葉原、大井町、荻窪(直営)の6カ所。いずれも1部店舗を除けば、10人足らずで満員というミニ店舗だ。通常の飲食店が出店しにくい坪数で月間200万円を売り上げる店舗もあるという。

海帆は2019年3月期末で居酒屋を中心にレストラン、ギョウザ、油そばなど13業態・91店舗を展開するが、今回買収した立ち食い焼肉は同社の既存業態にないカテゴリー。新業態の開発や既存業態のスクラップ・アンド・ビルドと並んで、M&Aによる新ブランド獲得を成長戦略の一つに位置付けている。

東京初出店から8年の空白

店舗網(3月末)は愛知・三重・岐阜・静岡の東海78(うち愛知52)、関西5、九州7、関東1。

海帆が2011年、東京に初出店した「大須二丁目酒場」(豊島区西池袋)

関東の1店舗とは東京・池袋西口にある「大須二丁目酒場」。“毎日が飲み放題”をキャッチフレーズとし、名古屋の名物料理にこだわった創作料理を定番とする。もっとも、同店が出店したのは2011年。今回、「治郎丸」を傘下に取り込み、8年ぶりに東京進出を事実上再開した格好だ。

海帆の歩みをたどると、鮮魚卸・魚帆(1952年創業)を母体とし、2003年に飲食店経営を目的に発足した。

会社設立以来の主力ブランドが「なつかし処昭和食堂」。その名の通り、昭和の雰囲気を再現したのが特徴で、全体の6割強の56店舗を数える。同社躍進の原動力となったのが郊外の主要幹線道路沿い(ロードサイド)への出店戦略。無料送迎バスを活用し、「居酒屋といえば、駅前か繁華街」という常識を覆したのだ。実際、「なつかし処昭和食堂」の6割以上は郊外にある。

足元の業績は苦戦中

2015年には東証マザーズに上場した。ただ、足元の業績は苦戦中だ。19年3月期は売上高15.8%減の49億2000万円、営業赤字2億5900万円、最終赤字3億9600万円。売上高は約9億円減少し、2年連続の赤字に沈んだ。1年間で13店舗を閉店(新設3店舗)したことなどで大幅な減損を計上した。

そうした中で踏み切った「治郎丸」の買収。今後、事業シナジー(相乗効果)創出に向け、本拠地の名古屋で「治郎丸」ブランドを横展開することも予想される。

20年3月期は3年ぶりに小幅ながら黒字復帰を見込む。

文:M&A online編集部