本国に比べて日本での給与水準が低い上に、円安でさらに人件費の「割安」感がある。コロナ禍でリモート勤務の体制が整ったことから、海外からでもシステム開発作業に従事しやすくなったなど「国境の壁」も低くなった。
とりわけGAFAでは米国本社勤務の場合、ベースとなる給与が新卒で10万ドル〜15万ドル(約1361万〜2042万円)。これに自社株の交付やボーナスが加わる。経験者のヘッドハンティングであれば、さらに好条件だ。日本法人ではなく、米国本社での採用を目指す日本人技術者も増えている。
欧米企業だけではない。AI(人工知能)や半導体設計といった最先端技術の開発者は、中国や韓国からも高給でのヘッドハンティングが増えているという。
かつて日本企業は「給与は安くても年功序列で給与が上がり、終身雇用で安定している」ことが強みだった。目先の給与が高いからと言って、業績が上げられなければすぐに「お払い箱」になり、雇用が不安定な外国企業へ転職する技術者は少なかった。
しかし、近年では日本企業の給与水準が伸び悩んでいるのに加えて、年功序列制賃金制度が崩れつつある。「長く在籍すればするほど給与が上がる」時代ではなくなった。
さらには日本企業でも、リストラが日常化。名目上は終身雇用でも、退職勧奨に従わなければ希望しない職種に転換されるなど「いやがらせ」に近い対応をされるようになり、雇用の安定性は著しく損なわれている。そうなると海外企業への転職を忌避する理由はない。
大手転職情報サイト「doda」によれば、2022年3月のIT技術職の新規求人倍率は9.5倍と、2.8倍の営業職や0.4倍の販売職を上回っている。世界的なデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展で、「人材争奪戦」は激化するのは避けられない。日本企業は給与の引き上げで引き留めるしか対抗策はなさそうだ。
文:M&A Online編集部
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