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上場化粧品メーカー5社、「マスク生活」長期化が業績回復を左右

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化粧品メーカー各社、日本での販売回復は「途上」
「マスク生活」長期化に打ち勝つ新戦略は

公開日付:2022.07.04

 コロナ禍で外出自粛やマスク生活、リモートワークが広がり、「化粧品」は大きな痛手を受けた。感染者の減少で、先行きに明るさも漂い始めたが、化粧品の販売は一進一退をたどり、本格回復には至っていない。
 上場化粧品メーカー5社の直近本決算(2022年12月期、または2022年3月期、連結)は、各社が営業黒字を計上し、うち3社(コーセーは決算期変更のため対象外)は営業利益が増益に転じた。
 2022年3月、全国のまん延防止等重点措置が解除され、5月には中国のロックダウンも解除された。化粧品各社は今期の通期決算で増収増益を見込んでいる。
 だが、マスク着用が定着した新しい生活様式が続くなか、コロナ前の水準まで業績が回復するのは容易ではない。

コロナ禍当初は売場が閉鎖

 上場化粧品メーカー5社の四半期ごとの売上高推移を前年同期との推移でみると、2021年1-3月期を境に緩やかに増加に転じている。
 各社は2020年初めにコロナ禍の影響で急激な売上減少に見舞われた。欧米はロックダウンで経済活動が停滞し、日本も初の緊急事態宣言の発令で市場が急速に縮小した。
 特に、深刻だったのは百貨店や大型商業施設の休業や営業時間の短縮で、客足が止まった。化粧品販売の主力である対面営業が難しく、各社が力を入れる高価格帯の商品を扱う“主力売場”閉鎖は営業機会の損失に直結した。
 その後もテレワークの定着や、催事の延期・中止が相次ぎ、2020年4-6月期は5社とも前年同期より20%以上の減収、うち3社が30%以上の大幅減収だった。

上場化粧品メーカー 売上高推移(前年同期比)
©東京商工リサーチ

地域で回復スピードに差

  2020年の四半期ごと(1-3月、4-6月、7-9月、10-12月)の売上高は、5社ともすべての四半期で前年同期を下回った。マスク荒れなど肌の不調に対応したスキンケア用品やアイメイク関連の需要は底堅く推移したが、化粧品全般が大きく落ち込んだ。
 次第にコロナ生活に慣れたことで、需要は回復に転じ、各社とも業績は徐々に反転した。業界最大手の資生堂は、2021年4-6月期に前年同期比38.1%増まで戻し、各社も復調の気配を見せた。
 ただ、各社とも2021年4-6月期以降の増収の要因は、「国内より海外で需要が回復した」(資生堂)と分析する。この時期は、欧米等で行動制限が緩和に向かった一方、国内では緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が度々発令されていた。
 資生堂の2021年12月期(通期)の売上高は1兆351億円(前期比12.4%増)で、コロナ禍が直撃した前期から増収で着地した。ただ、売上高は欧米や中国などの海外事業が15%以上の増収だったのに対し、国内事業は8.9%の減収を強いられた。資生堂の担当者は、「国内の回復が鈍かった」と話す。その上で、「欧米はワクチン接種等の普及が早く、(政策的に)外出機会が早期に増えて回復が強かった」と振り返る。

「マスク生活」が今後を左右

 2022年は中国がゼロコロナ政策を推進し、3月以降、上海などのロックダウンも重なり販売が落ち込んだ。2022年1-3月期の売上高は、「カネボウ」ブランドなどを展開する花王(化粧品事業)、コーセーを除く3社が前年同期を下回った。
 国内は3月のまん延防止等重点措置が解除された。渡航制限も多くの地域で緩和され、夏以降の需要回復を化粧品各社は比較的ポジティブにとらえている。
 とはいえ、新しい生活様式が浸透し、ノーマスクへの抵抗はまだ強い。このため、販売回復は海外を中心に見込む。国内需要については、「スキンケアは底堅く推移するが、化粧品全般はコロナ前の水準まで回復するのは時間が必要」(資生堂)と慎重な見方を崩していない。さらに、「マスク生活が続く限りコロナ前の水準の回復は難しい」(コーセー)と、コロナ禍の影響の長期化を危惧している。

‌大手化粧品メーカー各社の直近本決算
©東京商工リサーチ

国内販売は「EC普及」がカギ

 化粧品各社は、コロナ禍でも新たな取り組みに着手している。スキンケアへの意識の高まりを受け、コーセーは「若い世代にも高価格帯のスキンケア商品の認知が拡大した」と話す。同社では高価格帯ブランド「コスメデコルテ」の一部で、手頃な1万円以下のラインナップを投入している。容量も他の商品に比べ少量にし、値ごろ感を出す。求めやすさで既存顧客層に加え、若い世代にも認知が拡大したという。
 ポーラ・オルビスHDは、他社に先駆けてオンラインでの販売(EC)強化に乗り出し、店頭でのカウンセリングをオンライン上で可能にした。どの商品が利用者に合うか判断できる仕組みを自社アプリに搭載し、お客に合った商品を紹介する。これは女性客だけでなく、マスクで隠せない目元のしわを気にする男性客にも広がっているという。
 新たな取り組みが進む一方で、国内の化粧品市場は高価格帯が中心で、いまだに店頭で実際に商品を試して購入するタッチアップ形式が主流だ。それだけに各社ともEC市場を新規客の開拓の場と捉えている。
 始まったばかりの“オンラインツール”整備が、今後の化粧品各社の業績を左右する可能性が出てきた。

※集計対象の上場5社は以下の通り。
・(株)資生堂(TSR企業コード:290076870、東証プライム)
・花王(株)(TSR企業コード:290030129、同、化粧品事業)
・(株)コーセー(TSR企業コード:290050723、同)
・(株)ポーラ・オルビスホールディングス(TSR企業コード: 296846023、同)
・(株)ファンケル(TSR企業コード: 350606404、同、化粧品事業)

東京商工リサーチ「データを読む」より

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