相談者:メーカー経営者・60歳・男性
回答者:弁護士・大村 健
買収前の「清算」が基本
人事労務の観点で法務デューデリジェンス(以下、法務DD)をしていると、労働基準法上で定められた管理監督者に当たらないのに、管理監督者として残業代を支払っていないケースに遭遇することがあります。いわゆる、「名ばかり管理職」です。
管理監督者であれば、労働基準法上で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。しかし、管理監督者というのは、「経営者と一体的立場にある者」とされています。ですから、役職が課長でも当てはまらないこともあります。最終的には、職務内容や責任と権限、勤務実態などによって判断することになります。
同様に、みなし労働時間を採用している企業で、みなし労働時間を超えた労働に対しては残業代を支払う義務があるにもかかわらず、支払っていないというケースもあります。
このような状態が発覚した場合、基本的にそれ以前の支払われるべきだった残業代を支払ってもらうことになります。もしくは、従業員と協議のうえ残業代の放棄をしてもらうという対処法もあります。
いずれにせよ買収前に「清算」が必要です。このような「清算」ができない場合は、譲渡金額をその分低く設定するといった対処法が考えられます。
残業代の請求の時効は2年分です。しかし、従業員が多い会社の場合、その額はかなり大きなものになりますから、後から発覚すると大変なことになります。
労務管理上の懸念のある会社の法務DDでは、特にこの点を注視する必要があります。
今回のケースでも未払い残業代があまりにも膨大な金額になるようでしたら買収を断念することも選択肢の一つとして考えた方がよいでしょう。
取材・文:小林麻理/監修:M&A Online編集部
フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー 弁護士
1974年埼玉県生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中の96年、司法試験合格。99年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。11年、フォーサイト総合法律事務所開設、代表パートナー弁護士に就任(現任)。
同事務所は、生え抜きの弁護士9名(本年12月に新規登録弁護士1名が加入予定)・司法書士兼行政書士1名が所属し、企業法務全般、M&A・MBO/企業再編、会社法、金融商品取引法、ベンチャー・株式公開(IPO)、ファイナンス(種類株式・新株予約権発行含む)、IT・エンターテインメント・バイオ/知的財産権、労働法、コンプライアンス、不動産関連、エネルギー関連、事業再生、訴訟・争訟等を取り扱う。
『新株予約権・種類株式の実務』、『図解入門ビジネス最新会社法の基本と仕組みがよ~くわかる本』、『ケースでわかる株式評価の実務』ほか著書・論文多数。
フォーサイト総合法律事務所 http://www.foresight-law.gr.jp